『紅の記憶』
ここは京都の嵐山。
四季のどれでも楽しめる不思議な山。
秋は特に紅葉が魅力的で、
山の涼しい気候と紅葉で色付いた風景が
マイナスイオンを感じさせてくれる。
たまたまそこで一緒に見ることになった人と
歩くのにもうってつけだろう。
道に迷ってしまったところをお手伝いさせてもらっているが
気晴らしに竹林を抜け紅葉を二人で見ながら歩く。
相手も最初こそ不安気な表情を浮かべていたが
次第に紅葉に目を輝かせていた。
気分転換も上手く行き目的地に辿り着けそうになのを見て
別れの挨拶をしようとしたら後日お礼がしたいからと
連絡先を交換して欲しいと頼まれた。
これも何かの縁。そう思い交換した。
なんて昔話をすると君は紅葉のように顔を染める。
これから告白するのだが君の顔はさらに赤くなるのだろうか。
語り部シルヴァ
『夢の断片』
最近変な夢をよく見る。
モヤがひたすら何かをかき集めている。
手に取ってみても曖昧な存在なのか何かわからない。
そんな何かを何かが集めている。
「なあ、何してるんだ?」
問いかけても返事が無い。本当になんなんだ...
もう一度何かを手に取ってよく見る。
ガラスの欠片のようなそれは中で蠢く影がある。
これは...パンを焼いている人の影?
別の欠片を拾って見る。柔道をしている人の影...
誰かの将来の夢?
いや...この内容に覚えがある。
自分の...夢だ。
じゃあこのモヤはっ!?
肩らしき部分を掴むと存在がはっきりしてきた。
これは俺だ。
俺が今までに見た夢を形にしようとしていたんだ。
語り部シルヴァ
『見えない未来へ』
弟が駄々こねてもお姉ちゃんがそれをあやし二人で笑う。
そんな微笑ましい二人を見ては君と目が合う。
目で会話するように君が何を考えてるかわかる。
家族仲睦まじい光景。
そこから目を逸らそうとすると足を掴んでくる。
弟が、お姉ちゃんが、君が...
"また置いていくの?"
三人から発せられる言葉に動けなくなる。
文字通り過去に縛られるとはこの事だろうか...
俺は家族よりも仕事を優先した結果全て失ってしまった。
そんな俺が幸せになっていいのか...
義父母の言葉もカウンセラーの言葉も心に刺さらない。
でも...今みんなの所へ行けば怒られてしまう。
そんな気もしてしまう。俺は、どうしたいんだ。
足を掴む三人をよく見ると自分に見えてきた。
声もなんだか自分の声のように...
そうか...そうだったんだ。
これはみんな俺だ。
家族を言い訳に動かない俺だったんだ。
強引に足に縛られた手を振り払う。また声が聞こえた。
"ずっと一緒だ。忘れることも離れることもない。"
そう答えて俺は軽くなった足腰を持ち上げて進み始めた。
まずは...みんなに感謝と謝罪の電話を入れないとだ。
語り部シルヴァ
『吹き抜ける風』
何重にも重ねた厚着。
それも一枚一枚が保温効果抜群の装備。
それなのにどうしてか風は隙間を見つけては潜り込んでくる。
マフラーや耳あて、手袋をしても効果がないようで、
まるで貫いて来るような風は
私の中心からじわじわと熱を奪っていく。
...寒い。
次はカイロも準備しておかないと...
寒がりな私はどれだけ防寒対策をしても
脳裏に"寒い"と2文字がよぎる。
次カフェを見かけたらそこで避難しよう。
暖かいコーヒーでも飲んで体の芯をまた一から温め直そう。
語り部シルヴァ
『記憶のランタン』
魔法で作り出したランタンに火が灯る。
ランタンが照らす光に包まれたと思ったら
懐かしい空間にいた。
ここは...学校かな。クラスメイトがいて、君がいて...
君...そうだ。君は...
「ありがとうございます。
おかげで妻のことを思い出せました。」
「どういたしまして。」
ランタンはそのまま空へと昇っていきふわっと消えた。
たまたま見つけた魔導書は
記憶のランタンを創造する魔法だった。
特にしたいことも無い私は
ランタンを使って人助けをしようと決めた。
また依頼が来た。
ランタンを灯して...
薄暗い山奥。人一人分のサイズの麻袋が土に...
あれ...これって...
「いやーどこ埋めたか覚えてなかったから助かった。
...ところで今の見たよな?」
気づいた時には棍棒を振りかぶったお客さんが
視界いっぱいに入った。
語り部シルヴァ