『見えない未来へ』
弟が駄々こねてもお姉ちゃんがそれをあやし二人で笑う。
そんな微笑ましい二人を見ては君と目が合う。
目で会話するように君が何を考えてるかわかる。
家族仲睦まじい光景。
そこから目を逸らそうとすると足を掴んでくる。
弟が、お姉ちゃんが、君が...
"また置いていくの?"
三人から発せられる言葉に動けなくなる。
文字通り過去に縛られるとはこの事だろうか...
俺は家族よりも仕事を優先した結果全て失ってしまった。
そんな俺が幸せになっていいのか...
義父母の言葉もカウンセラーの言葉も心に刺さらない。
でも...今みんなの所へ行けば怒られてしまう。
そんな気もしてしまう。俺は、どうしたいんだ。
足を掴む三人をよく見ると自分に見えてきた。
声もなんだか自分の声のように...
そうか...そうだったんだ。
これはみんな俺だ。
家族を言い訳に動かない俺だったんだ。
強引に足に縛られた手を振り払う。また声が聞こえた。
"ずっと一緒だ。忘れることも離れることもない。"
そう答えて俺は軽くなった足腰を持ち上げて進み始めた。
まずは...みんなに感謝と謝罪の電話を入れないとだ。
語り部シルヴァ
『吹き抜ける風』
何重にも重ねた厚着。
それも一枚一枚が保温効果抜群の装備。
それなのにどうしてか風は隙間を見つけては潜り込んでくる。
マフラーや耳あて、手袋をしても効果がないようで、
まるで貫いて来るような風は
私の中心からじわじわと熱を奪っていく。
...寒い。
次はカイロも準備しておかないと...
寒がりな私はどれだけ防寒対策をしても
脳裏に"寒い"と2文字がよぎる。
次カフェを見かけたらそこで避難しよう。
暖かいコーヒーでも飲んで体の芯をまた一から温め直そう。
語り部シルヴァ
『記憶のランタン』
魔法で作り出したランタンに火が灯る。
ランタンが照らす光に包まれたと思ったら
懐かしい空間にいた。
ここは...学校かな。クラスメイトがいて、君がいて...
君...そうだ。君は...
「ありがとうございます。
おかげで妻のことを思い出せました。」
「どういたしまして。」
ランタンはそのまま空へと昇っていきふわっと消えた。
たまたま見つけた魔導書は
記憶のランタンを創造する魔法だった。
特にしたいことも無い私は
ランタンを使って人助けをしようと決めた。
また依頼が来た。
ランタンを灯して...
薄暗い山奥。人一人分のサイズの麻袋が土に...
あれ...これって...
「いやーどこ埋めたか覚えてなかったから助かった。
...ところで今の見たよな?」
気づいた時には棍棒を振りかぶったお客さんが
視界いっぱいに入った。
語り部シルヴァ
『冬へ』
外に出ると吐息が白く見える。
日が出ているのに冷え込むような気温。
そういえばもう11月も後半に入っていた。
今年も秋が早く終わった気がする...
そう考えるともう冬がやってきた。
それは今年の終わりが近づいているということだ。
少し寂しくなる...
...どうせ来年が始まれば今年の抱負が〜とか考えてるか。
なんて思うと気が少し楽になる。
待ち合わせまで充分間に合いそうだ。
冬の寒さを味わいながら行こう。
進んでいると頭に少しひんやりとした感覚があった。
雪だ。あまり見ない地域だからすごく珍しい雪が降ってきた。
これ以上は冬を味わうと芯まで冷えてしまうな。
ポケットに手を突っ込んで肩を竦めて早足に進み出した。
語り部シルヴァ
『君を照らす月』
帰る時間は変わっていないのに日がどっぷりと沈んでしまった。
寒くなると日が沈むのも早くなって少し寂しい気もする。
惹かれるように自販機でココアを買って手を温める。
いい加減手袋を買おうか悩んでいるといつもの公園を通りかかろうとしていた。
せっかく買ったココアを暖を取るだけだと味気がないと思い
公園のベンチで飲むことにした。
雲で陰って空が見えない真っ暗な公園。
ひんやりと冷えたベンチだけどココアを飲んで
随分と体が温まった。
さっきまで寒かった外も今じゃ涼しいと思える。
そろそろ帰ろう。立ち上がろうとした時、
雲が晴れ月が公園を僅かに照らす。
静かで寂しさは変わらないけど、どこかホッとした。
すると手にふわっと何かが触れる。
視界に目をやると黒猫らしき何かが擦り寄ってきていた。
月のおかげで君を見つけれた。
だがぼんやりと照らすものだから全体像がはっきりとしない。
ただわかることは僕の膝の上に座っている事だ。
...帰れない。風邪をひいたら君のせいにするからね。
そう思いながら撫でるとゴロゴロと音がした。
語り部シルヴァ