『遠い足音』
君の足音が小さくなっていく。
もう私の手は届かない。
もっと一緒にいたかった。
おはようもおやすみもまた明日もやってこない。
まだやりたいこといっぱいあったよ。
視界が滲む。
最後まで君を見たかったのによく見えない。
"行かないで"
言葉も喉に詰まる。
明日からはいつも通りの私になるから
今だけは...この感情に任せて涙を出し切りたい。
パンザマストから夕方の時報が鳴り響く。
私の嗚咽した声も君の足音も思い出も全てかき消すように
静かに、大きく鳴り響く。
語り部シルヴァ
『旅は続く』
ご飯を食べ終えてコーヒーを飲んで一息つく。
今日はそろそろ街に付けるといいけど...
地図を開いて現在地と次の目的地の街を見比べる。
...うん。行けそう。
残りのコーヒーを一気に飲み干して思い切り伸びをする。
この時期の朝は少し肌寒いけど空気が美味しい。
変に早く目覚めちゃったけどいい気分。
こういう野宿は悪くない。
っと、そろそろ準備しないと。
荷物をまとめて出発の準備を始める。
ものを片付けて焚き火の火を消して...
自分が野宿を始めたときよりも綺麗になったのを確認して
もう一度大きく伸びをして 街への一歩を踏み出した。
語り部シルヴァ
『モノクロ』
なんにも手が付かない。
やらなきゃいけないこと
やりたいこと沢山ある。
それなのに全部がぶつかり合って体が動かない。
体力はあるけれど真っ白に燃え尽きたように動かない。
趣味も今はやる気が起きない。
なんだか見てる世界に色が抜けたようで
力が入らない。
なにも...
...この時期はメンタルが落ちやすい。
暖かい布団にくるまって真っ黒な世界に沈んでいこう。
沢山寝て、次に起きた時にはまたこの世界に色を付けよう。
そうすればこの世界が少しでも好きになれるかもしれない。
語り部シルヴァ
『永遠なんて、ないけれど』
「あ、今お腹蹴った」
大きくなったお腹を撫でて君は微笑む。
俺たちはついに子を授かった。
愛する存在を2人も作れるなんてとても贅沢な話だ。
これから3人でどんな思い出を作ろうか。
ずっと幸せが続くわけじゃない。
大変なこともあるだろうけど家族で乗り越えられるといいな。
君のお腹を優しく撫でる。
命が脈打つ感覚が指の先から伝わってくる。
今この瞬間、
体の内側から溢れてくる幸せの感覚がずっと続けばいいのに。
そんなことを考えながら君の横に座ると
君は俺に体を預けてきた。
全身から感じる温もりにまた幸せを感じた。
語り部シルヴァ
『涙の理由』
「マスター、大丈夫ですか?」
マスターが涙していた。
私はロボットだから
マスターのこういった行動や感情は共感できない。
けれど画面に映っている再生数と
コメントが全て物語っているのかもしれない。
「あぁ、ごめんね!大丈夫だよ !
次もまたお願いするからそれまで待っててね!」
涙を急いで服で拭って泣き腫らした顔で笑顔で私に答える。
「...わかりました。
それまでは家事など済ませておきますね。」
マスターのありがとうを聞いて部屋を後にする。
ドア越しから溢れる涙を抑えきれないマスターの声が漏れる。
私はマスターの心は理解できない。
マスターがあそこまで涙するのもわからない。
もしかしたら私がもっと上手く歌えていたら
涙することもなかったかもしれない。
なのにマスターは全部自分が悪いように言う。
申し訳ないマスター。
私はその涙を拭えない。
だから...次はその涙を吹き飛ばすような力で
マスターの期待以上に応えます。
語り部シルヴァ