『ただいま、夏。』
恋をしては別れを繰り返していつしか恋から逃げていた。
僕なんかを好きになる人はいない。
僕は誰にも愛されない。
そう決めつけてきた。
自分を卑下しすぎたのか
心が凍ったようになんにも手に付かない。
そんな中僕のことを気になると言う人が現れた。
いつぶりだろうか...嬉しい反面あまり期待はしていない。
それでも...こんな僕をまた愛してくれるような人だとすれば...
君の熱がどんどん僕の心を溶かしていくような気がする。
こんな夏はいつぶりだろう。
夏って...こんなに熱かったっけなあ。
語り部シルヴァ
『ぬるい炭酸と無口な君』
『........』
会話が弾まずただただ二人で座って窓越しに空を見上げる。
入道雲が太陽を隠し蝉時雨が降る。
暑いはずの空気は湿気った風に吹かれ
さむいぼが止まらない。
気分を紛らわそうとラムネを口に運ぶもすっかりとぬるくなってなんとも言えない気分になる。
俺が何かしただろうか。君を怒らすようなことをしてしまったのだろうか。
頭の中で必死に理由を探すも思い当たることが無さすぎる。
君の顔を横目で見る。
どこか儚げで、どこか決意に満ちていそうな表情。
俺の好きな顔のひとつ。
けれどそういう雰囲気でも無さそうだ。
「あのね...」
君が口を開く。反射的に上半身を君に向ける。
入道雲が唸り声をあげ蝉時雨は夕立にかき消され始めた。
そんな夏の顔が君の声をもかき消そうとしてきた。
いや、俺が聞きたくなかっただけなのかもしれない。
今年の夏はもう暑さを忘れてしまった。
語り部シルヴァ
『波にさらわれた手紙』
修学旅行で船に乗ることになった。
ホテルでお風呂を先に済ませてから船で一晩過ごすという
変わったスケジュールだったが、
夜の少しの間の自由時間は楽しみだった。
そしてそのタイミングで
私は気になる人に告白しようと考えていた。
...が先客がいたようでどうやら私の告白は
する前に失敗したようだ。
言葉で伝えるのが恥ずかしかったから思いを認めた手紙を
渡そうと思ったのに全くの無駄になってしまった。
何時間もかけて考えたのになあ...
少し賑やかな声が遠くから聞こえるような場所で
一人静かに夜景を見る。
吹く風は夏なのにどこか寒くて目を乾かしに来ては涙を誘う。
ここで泣いてもいいかもしれない。
誰もいないことを確認したが声を殺して泣く。
強い潮風が吹いて私の手から手紙を
奪ってそのまな海に捨てられた。
せめて自分の手で捨てたかった手紙は
真っ黒な波に飲まれて消えていってしまった。
どこまでも上手くいかない現状に
残りの修学旅行を私は楽しめるだろうか。
不安が込み上げてまた涙が溢れて、
それも黒い波に消えていった。
語り部シルヴァ
『8月、君に会いたい。』
久しぶりの実家に帰ってきた。
漣の音、うるさい蝉時雨。
それ以外は何も無い。
あー、暇だ。
一人暮らしの生活がいかに快適だったかよくわかる。
さっさと一人暮らしをして正解だった。
たまには顔を見せないと親がうるさいから帰ってきたが...
ちょっとした都合であと2週間ここにいることになった。
...気が狂いそうだ。
それでも二週間後のために帰ってきたと
言っても過言じゃない。
もう八月だ。
二週間後...君に会えるかな。
入道雲が映える空の下。
太陽を隠すほどに大きい雲を見上げていると
悪寒が止まらなかった。
語り部シルヴァ
「眩しくて』
ギラりと睨む太陽。
光という光を反射する波。
楽しそうな悲鳴が耳を通り抜ける。
友達に誘われて海に来た。
...はずなのにほぼ全員ドタキャンしてしまった。
クラス内の男女三人ずつの予定だったのに
俺と女の子一人まで減ってしまった。
あまり会話したこともなく、
また人数が集まった時にしようと提案したものの、
女の子が「私は行けたら嬉しいなあ」と
少し楽しみな顔を見せてきたので断れず...
そして今に至る。
今は女の子が準備をしてくる間に
場所を取って海を眺めていたところだ。
「お待たせ...」
女の子の声がして振り返る。
普段見ない姿に思わず声が詰まる。
制服で隠れていた部分が露になるのが
これほど衝撃だったとは...
「あの、大丈夫?」
心配してくれているのに申し訳ないな...
「ごめん...眩しすぎて見れない。
...あと水着似合ってる。」
女の子の嬉しそうな「ありがと」が耳元で聞こえた。
これが夏...なんだな。
語り部シルヴァ