語り部シルヴァ

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『波にさらわれた手紙』

修学旅行で船に乗ることになった。
ホテルでお風呂を先に済ませてから船で一晩過ごすという
変わったスケジュールだったが、
夜の少しの間の自由時間は楽しみだった。

そしてそのタイミングで
私は気になる人に告白しようと考えていた。
...が先客がいたようでどうやら私の告白は
する前に失敗したようだ。
言葉で伝えるのが恥ずかしかったから思いを認めた手紙を
渡そうと思ったのに全くの無駄になってしまった。
何時間もかけて考えたのになあ...

少し賑やかな声が遠くから聞こえるような場所で
一人静かに夜景を見る。
吹く風は夏なのにどこか寒くて目を乾かしに来ては涙を誘う。
ここで泣いてもいいかもしれない。
誰もいないことを確認したが声を殺して泣く。

強い潮風が吹いて私の手から手紙を
奪ってそのまな海に捨てられた。
せめて自分の手で捨てたかった手紙は
真っ黒な波に飲まれて消えていってしまった。

どこまでも上手くいかない現状に
残りの修学旅行を私は楽しめるだろうか。
不安が込み上げてまた涙が溢れて、
それも黒い波に消えていった。

語り部シルヴァ

8/2/2025, 10:39:56 AM