「眩しくて』
ギラりと睨む太陽。
光という光を反射する波。
楽しそうな悲鳴が耳を通り抜ける。
友達に誘われて海に来た。
...はずなのにほぼ全員ドタキャンしてしまった。
クラス内の男女三人ずつの予定だったのに
俺と女の子一人まで減ってしまった。
あまり会話したこともなく、
また人数が集まった時にしようと提案したものの、
女の子が「私は行けたら嬉しいなあ」と
少し楽しみな顔を見せてきたので断れず...
そして今に至る。
今は女の子が準備をしてくる間に
場所を取って海を眺めていたところだ。
「お待たせ...」
女の子の声がして振り返る。
普段見ない姿に思わず声が詰まる。
制服で隠れていた部分が露になるのが
これほど衝撃だったとは...
「あの、大丈夫?」
心配してくれているのに申し訳ないな...
「ごめん...眩しすぎて見れない。
...あと水着似合ってる。」
女の子の嬉しそうな「ありがと」が耳元で聞こえた。
これが夏...なんだな。
語り部シルヴァ
『タイミング』
朝から急な雨に降られた。
授業に必要な教科書と弁当を忘れた。
そして夕方に...チンピラに絡まれた。
何かと運が悪い。こう...もっとタイミングが合えば...
なんて言ったってあとの祭り。
ボロボロになった体を起こして裏道から出る。
周囲の人間は俺を少し見て声をかけることなく
流れるように去っていく。
当然だ。みんな厄介事を避けたいのだから仕方ない。
痛む体にぎこちない歩き方になってしまう。
帰ったらまた親に心配かけちゃうなあ...
「ね、大丈夫?」
ヨタヨタと歩いていると後ろから声をかけられた。
振り返るとさっきのチンピラと似たような格好の人がいた。
「あぁ...さっきの人のお友達?
悪いけど今日はサンドバッグになれないよ。」
「あー、やっぱり?アイツらなら
俺がボコボコにしてやったよ。
明日からは平和に過ごせるよ。」
じゃーねー。お大事に。と足早に去っていった。
出来たらもっと早くに助けてに来ても良かったのに...
なんて一日運の無かった自分を
慰めながら帰路を再び目指した。
語り部シルヴァ
『虹のはじまりを探して』
昔、虹のはじまりにはお宝が眠っていると
どこかで聞いて冒険に出たことがある。
リュックにジュースとお菓子を詰め込んで
友達と一緒にお宝を目指したことがあったっけ。
今じゃただの散歩の距離だけどあの頃は大冒険だった。
学校の通学路を超えて、自分の太ももくらいの
高さの雑草をかき分け、流れる川を一枚の板を使って渡って...
家から遠くなればなるほど不安が募って怖かった。
けどそれ以上に友達と一緒に遠くを歩く。
なんだかどこまでも行けそうな気がした。
結局のところ虹のはじまりには
辿り着けず暗くなる頃に帰った。
お宝は見つけれなかったけど、
あの頃のドキドキとか蝉の声とか
空に映えていた入道雲をよく覚えている。
臭い話、あれがお宝ってことにしている。
あの頃にはもう戻れない。
そんな二度と手に入らないお宝の話。
語り部シルヴァ
『オアシス』
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
とりあえず目に着いた隅っこのテーブル席に座る。
ソファに体重を預けるとしっかりと受けて止めて少し沈む。
暗すぎず明るすぎない落ち着いた空間は
冷房がしっかりと効いていてさっきまでの
外の猛暑が嘘のようだ。
特に用事も無く外に出るもんじゃなかった。
外に出たいけどやることがなくそこら辺を
ぶらぶらと歩いていると思った以上に遠くまで
歩いてしまい帰り道まで体力が持たない状況のところに
カフェを見つけて避難した。
普段出勤時以外は通ることが無く、こんなところに
カフェがあるなんて知らなかったし仕事帰りは
寄るような時間帯でも無いから気にしてなかったのだろう。
すごい偶然だがその偶然に感謝だ。
せっかく休憩に来たんだからコーヒーでも...
とメニューを開くとコーヒーは全てホットで来るようだ。
それでもコーヒーの気分だったので渋々コーヒーを頼んだ。
少し離れた所で豆をひく音が聞こえてくる。
うるさかったセミの鳴き声が聞こえず
物音ひとつひとつが響くような静けさだ。
眩しい外を窓から眺めているとコーヒーが運ばれてきた。
息を吹きかけ少し冷まして一口。
熱い。...けどこれはこれで喉が潤う。
この熱さが逆に冷房の冷たさを引き立たせてくれる。
なんて穴場を逃していたんだろうか。
まるで砂漠に生えたオアシスのようで、酷く救われた。
これからはメニューを頼む必要も
なくなるかもしれないな。
語り部シルヴァ
『涙の跡』
荷物をまとめて帰る準備をする。
表彰式に出る理由もなくなった今
ここにいる必要はあまりない。
あと1回勝てば準準優勝まで行けたのに...
負けてしまった。
帰ったら反省会だな...
メンバーが全員集まったかを確認する。
...キャプテンがいない。
「ちょっと探してきますね。」
試合に訪れたこのアリーナは中が広く
探すのは骨が折れた。
エントランス...いない。
観客席...広い。けど居なさそうだ。
キョロキョロと見回しながら
キャプテンを探しているとトイレから出てきた。
「わっ、やっと見つけましたよ。
...もう全員準備出来てます。
皆さんには伝えておきますので
焦らず荷物をまとめてください。」
キャプテンは「いつもすまないな。」
と急ぎ足で自分の荷物を取りに行った。
部活動で着ているTシャツの一部が少し濡れていた。
背負いすぎなことがあるキャプテンのことだ。
きっとトイレで泣いていたのだろう。
みんなにはあと少しだけ待っててもらおう。
語り部シルヴァ