『今を生きる』
過去に罪を犯した。
大切な人を傷つけた。
だから俺はその日からその人と距離を置いた。
それが正しいからだと当時は思っていた。
結局は君の隣にいるついでに俺が
後ろ指を刺されるのが嫌だったからだ。
結局その人は俺という頼れる存在が居なくなって自殺した。
その知らせを受けたのは既に君の火葬が済んだ後で、
俺に伝えないように釘を刺していたらしい。
俺は人の人生を終わらせるような失敗をした。
本当は君が生きて俺が死ななければならないのに...
君の告白に自信を持って「喜んで」と答えれなかった。
その選択肢が今を作った。
今はもう君はいないけど、俺はこれからも生きる。
君と一緒に過ごす予定だった明日を君の分も生きるために。
語り部シルヴァ
『飛べ』
勢いよく走り出し崖スレスレで飛ぶ。
大きな水飛沫を上げて水面が激しく揺れる。
「ぶはっ!あー!気持ちいいー!」
飛び込んでまもなく顔を出して大きな声でいとこは笑う。
「なー!早く来いよー!」
夏休みでおばあちゃん家に来たら偶然いとこも来てたようで
こっちに着くや否やいとこに海に行こうと手を引っ張られた。
海で泳ぐことには慣れているが飛び込みに関しては全くで
恐怖心しか勝たない。
「いやいや、さすがに無理だって」
「なんでー!俺ができたんだからできるってー!」
いとこは随分と自分勝手で昔からよく振り回されてきた。
だが今回ばかりは無理だ。
「お前ならできるよー!大丈夫ー!」
ほんと好き勝手言いやがって...
「死んでも文句言うなよー!」
やけくそになって走り出す。青い海がどんどん広がっていく。
「今だー!飛べー!」
いとこの声を聞いて精一杯地面を蹴って飛ぶ。
鼻に海水が入って少し痛いが、どことなくスッキリした。
「な?大丈夫だっただろ?」
いとこが笑顔で近づいてくる。
またいとこに振り回されたが...まあ悪くないかもしれない。
普段やらないような体験にいとこの笑顔を見れたから
深く考えないようにした。
語り部シルヴァ
『special day』
音楽を流しながら衣をつけた鶏肉を油に落とす。
揚げる音が食欲をそそる。
あぁ...お腹がすいてきた...
5つ、10つとどんどん揚げていく。
今食べたら美味しい...絶対に美味しい。
唐揚げに伸ばす手は止めて作業する手を止めずに揚げる。
今日は特別な日。
そんな日は盛大に好きなものを作って好きなだけ食べる。
カロリーだとか栄養バランスだとか明日のこととか気にしない。
明日は休みだからいっぱい食べていっぱい寝るんだ。
そして何より今日は...給料日だ。
全部揚げ終えてご飯とお茶を用意する。
「よし、じゃあいただきます!」
これが私の特別な日の過ごし方。
語り部シルヴァ
『揺れる木陰』
大木に背を預けてズルズルと座り込む。
近くの駄菓子屋で買ったアイスを食べる。
既に少し溶け始めて慌てて口に運ぶ。
ひんやりした口あたりにふぅとひと息漏れる。
なんもない田舎の景色。
所々に田んぼがあって、うるさい蝉時雨と太陽。
もう何度も見ては飽きている景色。
そんな景色を一望できるここは近くに駄菓子屋もあって
休憩するにはうってつけ。
駄菓子屋でアイスを買って、この大木で休む。
俺の夏のルーティン。
避暑地の大木はとても高く、
風を受けて綺麗な青い葉っぱを揺らす。
陰は踊り夏を楽しんでいるようだ。
俺も、同じ気持ちだ。
語り部シルヴァ
『真昼の夢』
目を覚ますとやけに冷房の効いている教室だった。
移動教室だったのか教室内には誰一人とおらず、
俺は完全にサボり扱いだろう。
だが焦りも後悔も無かった。
別にこのままもう一度寝てやろうとまで思っている。
机が冷房によってひんやりとしている。
机に触れている部分が冷たくて心地よい。
冷たい...外の暑いはずの日差しが教室の冷たさによって
緩和されて暖かく感じる。
うとうとしてきた...このままもう一度...
目を瞑ると意識ごと体が引っ張られるような感覚に
意識は戻される。
目が覚めたのは見慣れたベッド、乾いた喉。
仮眠のはずが思い切り寝てしまったようだ。
エアコンも扇風機も自動運転が切れて外からの熱で
部屋が蒸し暑くなっていた。
「あっづ...」
懐かしいような記憶に無いような夢を見た気がする。
どんな夢かを思い出すよりも今は
重い体を動かして水分補給しなければと冷蔵庫へ向かった。
語り部シルヴァ