『2人だけの。』
"今日は部活早めに終わりそう"
"それじゃあいつもの場所で待ってるね。"
部活が終わり待ち合わせ場所に向かう。
視聴覚室や家庭科室とか
普段授業あまり使わない教室が集まった第2棟。
そこの最上階の視聴覚室前は特に人が来ない。
簡単な秘密基地のようで集まるにはうってつけだ。
四階もあって階段を登るのはすごく大変だけど...
登りきった景色はすごく綺麗で夕焼けの下走る車や
夕日を反射するビルのガラスがキラキラしている。
息を整えてる間に見るには絶景だ。
こんな素敵な景色をふたりじめなんて贅沢な話だろう。
だけど...
「ごめん、待った?」
振り返るとさっきの僕と同じように息が上がった君がいた。
君とふたりじめできるなら悪くない。
僕と君と、2人だけの秘密の場所。
語り部シルヴァ
『夏』
照りつける太陽に焼かれた
アスファルトの上を歩いて三十分ほど。
大人しく電車を使えば良かったと後悔している。
目的地まであと一駅のところを何を思ったか
歩けばいいと考え今に至る。
その一駅がかなり遠く地図アプリで確認してみると、
なんと歩いて50分ほどだった。
先に確認すればよかったと後悔しつつも
足を進めないとこの灼熱地獄から
抜け出せないから歩き続ける。
ここら辺はなぜか自販機が全く見当たらず、
ここまで飲み物の補充はできていない。
唯一所持していた駅を出る前に買った
ペットボトルのコーラを口に運ぶ。
...ぬるい。三十分も日に当てられたらぬるくなってしまうか。
ため息をついて地図アプリでルートを再確認する。
目的地まであと25分。
流れる汗がジリジリと太陽に焼かれる感じがした。
語り部シルヴァ
『隠された真実』
別れた元カノから手紙と一緒に花が来た。
紫色のトゲトゲした花びらにトゲトゲした茎...
花に疎い俺が知る訳もなく付き合ってた頃も
花についてよく喋っているのを聞き流していた。
「なーにそれ〜?」
彼女が俺の肩から顔を出して荷物の中身を覗く。
「お別れの手紙と花だよ。後で捨てる。」
頬にキスと頭を撫でて機嫌取りをして彼女を剥がす。
彼女は「重すぎて笑っちゃうね」と
悔しそうに言いながら飲み物を取りに行った。
捨てる前に手紙の内容を見る。
「今までありがとう。あなたのことは忘れない。」
もっと書いてるかと思ったけどこれだけか。
あと花も調べるか...
花の写真を撮って検索にかける。
"アザミ"という花らしい。
全部スッキリしたから手紙も花もゴミ箱に捨てた。
語り部シルヴァ
『風鈴の音』
窓際に吊るした風鈴が風に吹かれる。
少し値段が張ったものの、
なんとなく市販より透明な音に感じる。
つんざくような音でも鈍い音でもない調度良い音。
気が付けば目を閉じて聞いてしまうくらいには
素敵な音だと思う。
この風鈴、些細な風でも綺麗な音が出るから
今日みたいなほんとにそよかぜでも音を出してくれる。
クーラーを止めて扇風機と桶に張った水に
足を突っ込みながら感じる風鈴の音は
日本の夏と言える風情ある音ものなのだろう。
今は太陽が一番照りつける時間だが暑さも
少しはマシになった気がする。
氷が溶けた麦茶をゆっくり飲む。
結露した水がズボンに垂れたが
それすら冷たくて気持ちいいと思う真夏日のお昼時。
語り部シルヴァ
『心だけ、逃避行』
「ほら、行っておいで。」
胸を開くとハート型の小さなロボットがぴょんと飛び降りる。
こちらを向いてきたのでゆっくりと頷くと
小さなロボットは走り出した。
僕は人間を模して作られたロボット。
臓器と呼ばれるパーツは
人間が本来持っている場所に合わせられている。
各パーツは自立していて好きなように生きている。
だから僕の仲間はパーツが常時体外に出て
暴れ回っているなんてよくある話だ。
もちろん僕らは心臓なんてなくても生きていけるし
僕の心臓のパーツは随分と大人しい。
だが外の世界に興味はあるようでこうして仕事が終わったら
基本的に外に出して好きなようにさせている。
人間にこの話をすれば
「そりゃいいな。しんどい仕事も心が自由なら気楽だろう。」
と僕と同じような死んだ目で笑っていた。
人間は大変なんだなと思う。
人間もこんなこと出来ればいいのにね。
語り部シルヴァ