『酸素』
俺が迫ったときアンタは察してぎゅっと目を瞑ってくれる。
始めたてはまだ恥ずかしいのか強ばる肩が
どんどん力が抜けていくのを見ていると愛らしく感じる。
してる最中に手を握ると強く握り返してくれる。
すればするほど苦しくなってくるはずなのに、
その苦しさが愛と思えるのは俺だけかな。
普段は俺からが多いけど、だからこそアンタから進んで
してくれる時なんか我慢できなくなっちまうのは反省だな...
そんなことを思ってるとアンタがチラチラこちらを見てる。
「...おいで。」
両手を広げると早足でアンタがこっちに来る。
頭を撫でると口元がニヤケてるの隠してるけどバレてるぞ。
あーもう、可愛いなあ。
今日はアンタのペースに合わせれるかな。
語り部シルヴァ
『記憶の海』
眠れなくてふと近くの砂浜へ足を運ぶ。
優しい砂の感触とさざなみの音が
深夜の不安な気持ちを和らげる。
片手をそっと海に浸けて数回かき混ぜるように動かす。
砂煙が舞い、落ち着く頃にぼやっと一枚の写真のように
映し出されたのは僕と家族が笑っているワンシーン。
家族の一番の思い出だ。
今は環境が変わったり色々あって
家族の笑顔は全く見なくなった...
そんな時夜中に海で遊んでいると
波が思い出を映し出すことを知ってからは
眠れない時はここで昔の笑顔を見せてもらって
不安を和らげる。
このままいっそ海に潜ってみるのも悪くないかもしれない。
そう考えるも戻って来れなさそうでやめた。
絶対この中は心地いい。
過去の幸せな記憶の僕たちはいつの笑顔だから...
きっと過去に飲まれて戻って来れなくなるだろう。
語り部シルヴァ
『ただ君だけ』
君と話すと世界が明るく感じる。
君が笑うと体温が二、三度上がる気がする。
君が他の人と心が痛む。
君に振り回されてばかりだ。
...まぁ、私が勝手に一喜一憂してるだけだけど...
それでも責任取って欲しいくらい。
何回か君を忘れようと色んなことを試してみた。
マッチングアプリだったり恋愛から離れてみたり...
そしたら世界は色を失ったみたいに面白くなくなった。
君が、ただ君だけが私の世界を鮮やかに変えてくれた存在だ。
今日も君を一日中見ていた感想を手紙にして送るね。
語り部シルヴァ
『未来への船』
出航の汽笛がまた鳴る。
また誰かの未来が決まったようだ。
ここは未来への行き先を決める港。
夢を見つけた人を見送る場所。
ここを旅立つ人はみんな希望に満ち溢れた顔で船に乗り、
その人を港にいる人たちが声援を送ったり
クラッカーを鳴らしたりなど色んな方法で見送る。
人は"希望の港"なんていつしか呼ぶようになっていった。
それを皮肉だと言う人も一部居た。
やりたいことが見つかっていない、見つけたけど
技量不足で船に乗れなかったなど理由は様々あった。
僕もその一人だ。
やりたいことを小さい頃から探したがここに来るまで
結局見つからなかった。
だから僕はここで受付をして夢を見つけた人を見送っている。
僕の分まで頑張れと勝手に期待しながら...
「...では、夢に向かって頑張ってください。」
笑顔で見送り、少し経った後で船の汽笛が鳴る。
頑張れ。夢を見つけた貴方ならきっと素敵な未来になる。
そう思うとなんだか自分が余計に惨めに感じるだけだった。
語り部シルヴァ
『静かなる森へ』
今日の天気は大雨だ。
風も拭いて嵐のような天気。
それなのにここの空間は静かすぎる。
ここは少し暗めの森。
子供たちが度胸試しで夜に来たり幽霊が出ると噂されたり
化け物が住んでると言い伝えがあったり...
少し暗めな雰囲気が外観から溢れてるような森。
思わず雨宿りのために入ってしまったが、すごく静かだ。
走ってきた僕の荒い息だけしか音がない。
雨の音は聞こえるが遠くからしか聞こえない。
僕が濡れているのがおかしいくらいだ。
けもの道をまっすぐ歩くが獣がいる気配がない。
雨粒も空を隠すほどの葉が受け止め地面が乾いているほどに...
静かで不気味だ...
雨が止んだらさっさと帰ろう。
少し大きめの木にどかっと座り込み息を整える。
静かで恐怖を覚えるくらいの空間なはずなのに、
遠くから聞こえる雨音がどこか安心感を与えてくれる。
...当分雨が止まないで欲しいなと思う自分がいた。
語り部シルヴァ