『夢を描け』
「んー...」
紙と睨み合いをしてどれだけ経っただろうか。
腕を組み続けて疲れているのに
気が付かなかったほど時間が過ぎていた。
進路希望調査。
誰もが一度はつまづくところだろう。
第一希望から第三希望まであるが...
どれが一番とかじゃなくてそもそも
どこへ行きたいかすら決まっていない。
それなのに進路希望を聞かれても答えれるわけがない。
これを渡された時の先生の言葉を思い出した。
「夢は自由に描けます。
好きなことが思わぬ進路になったり...」
残念だ。僕の夢のキャンパスは真っ白だ。
ここから筆が進む気がしない。
「考えるのやーめた。」
悩んでても仕方がない...
これについてはまた明日考えるとしよう。
語り部シルヴァ
『届かない......』
「えいっ...」
投げたボールは相手の前で三回ほど跳ねて転がっていく。
ダメだ...上手くいかない。
球技は苦手だ...ボールが思った方向へ行かないことが多い。
しかも今日は一番嫌いなソフトボール。
キャッチボールですらこの有様だ。
「ごめーん。届かなかった〜。」
「大丈夫だよ。じゃいくよー」
相手の投げたボールは高く飛び
私が想像しているよりも頭上を行く。
頑張ってボールがグローブに着地するよう調整しても...
「あだっ」
「おーい。大丈夫?」
ボールが頭に着地した。硬くて痛い...
「お節介かもだけどー!もっとボールをよく見てみてー!
あと投げる時はボールと一緒に体を前にして
投げるんじゃなくてボールを腕をメインに
体全体で押すイメージでやってみて!」
遠くから相手の声が聞こえて腕で丸を作り
わかったのジェスチャーをした。
相手が構えたのでアドバイス通りにやってみる。
「投げる時に体を前にしてボールを...えいっ!」
さっきよりも大きく弧を描いて飛ぶ。
そしてゆっくりと落ちていって...
また相手の前で跳ねて転がった。
「いい感じ!ナイスボール!」
届かなかったけど相手がフォローしてくれる。
恥ずかしいような悔しいような感情が込上げる。
あぁ...早く終わって欲しい。
そう思いながらもまた相手からのボールを
キャッチするためにグローブを構えた。
語り部シルヴァ
『木漏れ日』
晴れた空に優しい風。
木の葉が風でカサカサと擦れ合う音が妙に落ち着く。
道場の端っこで目を瞑りながら耳に入る情報に集中する。
この時期のご飯を食べたあとの休憩時間はこれをする。
優しい温かさに眠気を誘われ、
仲間たちの楽しげな雰囲気と自然の音を聞くのが好きだ。
そのまま寝てしまうのもよし、
音を聞くために頑張って起きているのもよし。
春は花粉症になってないのもあるがこれができるのが好き。
...そろそろかな。
十分耳からの情報を受けて目を開く。
仲間たちの笑顔や青い空。揺れる木漏れ日。
先に耳だけ情報を入れることであとから
視覚の情報を入れたとき、より綺麗な視界になる。
...気がするだけかもしれないが私はいつもやっている。
ルーティン的なやつだろう。
よし、昼からも頑張ろう。
ゆっくりと立ち上がり大きく伸びをして練習を始めた。
語り部シルヴァ
『ラブソング』
野外ライブをしている人を見つけた。
特に急ぎでも無いから足を止めて歌を聞いてみる。
聞いたことも無い曲で調べても出てこなかったから
オリジナルのようだ。
素人目線だがありきたりな歌詞を
淡々と並べているような曲であまり刺さらない...
歌声でカバーしているようで足を止める人たちは
歌声の事ばかり話している。
有名な曲を歌えばそれこそ人気になれそうだ。
このオリジナルにこだわる理由は
歌ってる人にしか分からないだろう。
そう考えるとこの歌もあの人の思いを綴った歌なんだろうか。
応援したくなったので財布から小銭を取り出す。
あまり持ち合わせがないのが申し訳なかったが
頑張れと念を込めて500円玉を投げ込んだ。
語り部シルヴァ
『手紙を開くと』
「手紙...?」
仕事帰りにポストを開けると見知らぬ封筒が入っていた。
封筒...の割には厚みがある。
ストーカーからの手紙の線はない...
人気者になれるほど自分はモテない。
「...?」
宛名は...無い。
なのに僕の住所を知っているのなら家族ぐらいだろう。
だが家族なら実家の住所を書くはず...
部屋に戻って封筒を適当なところに置いてことを済ませる。
ご飯や家事...お風呂を終わらせたあと、
本でも読もうかと手を伸ばす。
視界の先にさっきの封筒が入る。
...することも無いから開けてみる。
押し込められていたかのように中身から手紙が溢れてくる。
溢れ出した中からやっと一枚目を見つけた。
「差出人は...俺?」
"拝啓 数年前の俺へ"から綴られた文章が
そこから始まっていた。
始まりの挨拶に自分しか知らないことばかり
書かれていたから詐欺の類でも無さそうだった。
ちゃんとした自分からだと信じて
手紙を読み始めた。
語り部シルヴァ