『影絵』
光を当てる。
両手をパーにすれば蟹。
一件不規則なオブジェクトも森の中に立つ鹿に...
光という対象的なものの力を借りて影絵は成り立つ。
改めて影絵とは不思議なものだ。
僕は影絵のアーティストとして活動している一般人だ。
世間は趣があるとか考察のしがいがあるとコメントが来る。
そんなもの僕の作品には無い。
ただ自分の中にある黒い何かをそのまま
作品として出しているだけ。
もし考察してくれたコメントが納得するようなものだったら
僕のこの黒い何かの答えは出るんだろうか。
僕の心にある影も光を当てれば何か見えるのか...
そう思いふと閃いて病院へ行く。
心にある黒い何か...
医師に尋ねて検査をしたあと、医師から一言。
「いやー、綺麗なですね。
こんなに綺麗なレントゲンは見たことないですよ。」
語り部シルヴァ
『物語の始まり』
私なんかが...今までそんな人生だった。
誰かが私より主役になってて、私はいつも脇役。
諦め半分、私もあんなふうになれたらなと何度も思った。
そう、ずっと願っているばかりだった。
何気ない日々が続く中、私の目の前で泣いている子供がいた。
転んで怪我をしたのか、
膝は赤くなり見渡す限り親はいないようだ。
助けてあげたい...けど...
スマホの時間を確認する。
目的地まで15分。この子を助けると
面接は間に合わないだろう。
...遠くで肩を落とし子供に歩み寄る。
「大丈夫...?」
「おねーさんありがとう!じゃーねー!」
その後無事に子供は笑顔でどこかへと去っていき、
人混みの中消えていった。
事が解決した時には既に予定の30分オーバーだった。
電話で遅れたことの謝罪と
今から向かうことを電話したところ、
「面接は結構です。お疲れ様でした。」と
一方的に切られてしまった。
私なんかの人生の一部が失敗に終わるより
あの子が笑顔になって良かった。
少しでも主役にしてくれた子供の笑顔を思い出す。
また...また、次頑張ればいいじゃん。
私の中の私は珍しく背中を押してくれた。
そんな何かが変わったお昼時だった。
語り部シルヴァ
『静かな情熱』
『...』
こんなに沢山の人がいるのに静かな空間が
でき上がるものなのかと筆を進めながら思う。
みんなそれぞれ違うものを描いている。
誰1人声を発しないほどみんな集中している。
ただただデッサンをする時の鉛筆で線を引く音だけ
が教室内に響く。
普段よく喋るみんなだからこそこの静寂から
真剣さが伝わってくる。
その一方で僕はずっと心の中がうるさい。
ちらっと視界に入った仲間のデッサンを見て
上手いなあと思ったり、優しく差し込む光を
どう表現しようか悩んだりとずっとうるさい。
みんな熱が伝わってくる一方、
暖かくなってきて眠気を誘うこの静かな時間が
ずっと続けばいいのにと思うほど呑気な自分がいた。
語り部シルヴァ
『遠くの声』
真っ白な空間。
暑くも寒くもない。不思議な空間。
あれ、僕はさっきまで何をしてたんだっけ?
そう思いながらソファに腰掛ける。
...ソファなんてあったっけ。
まあ立っているよりいいか。
なんて呑気に考えつつ座りながらここまでのことを思い出そうとする。
誰かを待っているのか、今から何をしようとしていたのか...
悶々と考えていると、足音が聞こえてきた。
真っ黒なローブを羽織った髪から肌まで真っ白の少女が微笑みながら歩いて来た。
「やぁこんにちは。君も迷子かい?」
気さくに話しかけたが、少女は微笑んだまま。
なんだか不気味に感じるせいかこの場から逃げた方がいいと頭の中で警報が鳴り響く。
逃げよう。でもどこに...?
一面真っ白の空間。逃げ場を探していると、どこからか声がする。
「ねえ!起きて!」
とにかく声のする方へ走り出した。
「...!先生!患者さんが目を覚ましました!!」
語り部シルヴァ
『春恋』
春は嫌いだ。
暖かいと寒いが繰り返されてその日の服が決まらない。
花粉症だから花粉がすごくて目も鼻もやられる。
学校でそんな醜態を晒さないように
なんとかやっていけるけど...早く春が終わって欲しい。
ため息をついてガヤガヤとした賑やかな教室を見渡す。
ゆっくり左から右へと視線を流す中、視界がピタリと止まる。
...去年から仲良くしてもらっているあいつが目に入る。
今年度も一緒のクラスになって良かった。
去年を通してわかった。きっと私はあいつが好きだ。
あいつを見ると顔が熱くなる。
あいつともっと話したい。
あいつのことばっか考える。
あー...やっぱ春は嫌いだ。
語り部シルヴァ