『未来図』
録画機材、パソコン、ゲームモニター...
あとはマイク。
指差し確認をしてゆっくりゲーミングチェアに腰掛ける
なれない座り心地に体が強ばる。
それでもここまで揃えて何もしないわけにはいかない。
ここから僕は...いや俺はゲーム実況者になる。
ずっとパソコン越しに同じゲームを楽しそうにするゲーム実況者を何人も見てきた。
その楽しそうな声に、その人の手によって楽しそうに動くキャラクター。
憧れていた。俺もこんな姿に...
目標は想像よりも過酷で、未来図はまだ白紙。
でもずっとやってみたかった。
どんな結果になろうとも挑戦して見ることにした。
さ、始めよう。
録画ボタンを押して深呼吸する。
「どうもこんにちは。はじめまして!!」
語り部シルヴァ
『ひとひら』
朝なんとなくで目が覚めて散歩に出たがあいにくの雨だった。
それでも散歩に行きたい気持ちが勝り外に出た。
静かな朝で、雨音が弾ける音しか聞こえない。
一枚、また一枚と落ちていく。
桜の花びらが雨にうたれ重く散る。
桜しか見えないこの並木道は今、桜の雨が降っている。
いつもと違う散り方が雨の切なさを誘う。
この雨で今年の桜は散ってしまうだろう。
散歩に行きたくなったのはこの桜の花びらを見届けるためだったのだろうか。
雨音以外何も聞こえない。
桜はただ静かに身体を濡らし泣いているように花びらを流す。
傘から手を伸ばすと強い雨粒と一緒に
花びらがひとひら優しく舞い降りた。
語り部シルヴァ
『風景』
少し遠出をしていると美術展を見つけた。
入場料が無料だったという理由だが足を運ぶ。
美術館に入ることが少なく、少し挙動不審になってしまう。
それでも表面上は冷静にゆっくりと見て回る。
人物画、抽象画...
立体的なアート作品だったり色んな作品が展示されていた。
作品一つ一つ眺めていると、足が止まる。
いや、作品を見る度に足を止めていたが、
それの比ではなかった。
足を止められたという方が正しいかもしれない。
まるでその作品に飲み込まれるような。
魅力的な何かがあった。
その作品は海の底に日光が差す言ってしまえば
誰でも思いつくような風景画。
それなのに何故か無性に惹かれてしまう。
作品名は『溺愛』。
呼吸の仕方を忘れるほどに
この作品に惹かれる理由がわかったかもしれない。
語り部シルヴァ
『君と僕』
交換ノートをペラペラとめくる。
一言だけだがすごい量の一言が書かれている。
「朝起きて友達からLINEが来てたよ」
「お昼君が好きそうな服を買ってみた。
お小遣いは...ごめんね(笑)」
「夜更かししてみた。君のことを知りたくて...
けど寝ていたみたいで気がつけば朝になってたよ...」
僕のことを思いながら行動してみたり、
細かいお知らせを教えてくれるのは少し嬉しい。
君と僕お話できたらどれほど良かっただろうか...
「"キミのこともっと知りたいから教えてよ。"
そんな風にいつも思っている。
ちなみにキミが買ってくれた服ちょっとダサいけど
好きかもしれない。ありがとう<(*_ _)>」
僕が僕じゃなくなる時間。
キミは他にもなにかしているのかな。
僕らは二人で一人。今日は僕が頑張って生きる日。
語り部シルヴァ
『夢へ!』
校長先生と来賓の方の長話がやっと終わる。
約一か月前に聞いた気がするせいか
初めての高校イベントはものすごく眠たい。
もっと緊張とかワクワクで目が冴えるかと思ったけど、
そうでも無かった。
そして最後の長話であろう生徒代表の人の話が始まる。
これで最後かもしれない。
あくびを求める体をグッとこらえて先輩の話に耳を傾ける。
『ーーー。』
その先輩の声を聞いた瞬間、眠気が吹き飛んだ。
タイプの声とかそんなんじゃなくて、
声の重さとか話し方とかどうも聞き入ってしまう声だ。
今までに無い体験に汗がぶわっと出てきそうだった。
『最後に、素敵な高校生活を過ごせるよう
日々を悔いなきようお過ごしください。』
先輩の話が終わった。
あの人の声。もっと聞きたい。
自由時間になったら急いであの人を探しに行きたい。
今までに無かったこの感情を先輩なら教えてくれるだろうか。
そんな思いの中始業式は無事に終わった。
語り部シルヴァ