語り部シルヴァ

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4/2/2025, 12:08:03 PM

『空に向かって』

空に向かって伸ばした手はくうを掴み
そのまま地面に吸い寄せられるように体が落ちていく。
全部、全部これでよかったんだ。
目をぎゅっと瞑って身構える。

...宙にぶら下がっている感覚が続く。
恐る恐る目を開けると誰かが私の腕を握って
私が落ちるのを止めていた。

「何やってんの...!」
火事場の馬鹿力と言わんばかりの力で
か細い腕に引っ張られて屋上に戻る。
「ねえ、何やってんの!!」
声と容姿を確認して改めてクラスメイトと認識した。
普段何気ない会話をする程度。
ただそれだけの仲なのに助けに来たようだ。

「別に、あんたには関係ないでしょ。」
行き場を失ったイライラをぶつけないように
制服をはたいてその場を後にしようとする。

「関係あるよ!何かあったんなら教えてよ!」
ただ何気ない会話しかしないあなたには言うことないよ。
「私!力になるからさ!」
無視しようとした時その言葉に足がピタリと止まる。
もう、限界だ。

クラスメイトに近寄りお腹を見せる。
「家に帰れば親に殴られ姉に見捨てられた。
学校に居場所も無ければどこも安心なんてできない。
私がどれだけ勇気を出してこの場に居たか考えた?
あなたが力になれるのはそういうことを理解することだよ。」

そう言って今度こそ屋上を後にした。
次こそ、次こそは空に向かって手を伸ばせば届くと信じて
掴めなかった手を見ながら...

語り部シルヴァ

4/1/2025, 10:41:37 AM

『はじめまして』

いつも通りの春...ではない少し違った春が来た。
冬の終わり頃からパワハラによる休職をしていたが
一向に回復が見込めなかったことからやむを得ず
退職という形を取った。
同僚からは寂しいとの声もあったが、
また迷惑をかけるよりかはこれっきりにした方が
お互いのためでもある。
そう言い聞かせてニートを選んだ。

少し遅めに起きても誰にも責められることはないが、
仕事をしていない自分に焦りを感じている。
医師は焦らずゆっくり行きましょうと言うが
それでも有り金という時間制限は着いてくる。
休職手当もそこまで美味しくは無い。

まさかこんな春休みを体験するなんて思っても無かった。
社会人でも初めての経験があるものだ。
休職中ぼちぼちやっていた転職活動もより力を入れていこう。

春の陽気と時計の音が少しずつ現実味を見せてくる。
そんな焦燥感が募る春にはじめましての伸びをした。

語り部シルヴァ

3/31/2025, 1:51:57 PM

『またね!』

電車が発車するまであと10分。
これから僕の一人暮らし生活が始まる。
この電車がその第一歩だ。

楽しみと不安が混じりどこか落ち着かない。
車窓から見える見慣れた景色を見つめていると
少し寂しくなる。
うるさい感情たちを内心なだめていると、スマホが鳴る。

"やぁ、もう出発したかい?"
唐突に先輩からのメッセージだ。
思わず立ち上がりそうになるくらい心臓が跳ね上がる。

"いえ、あと数分で出発です。"
"そっかそっか。気をつけてね"

「ありがとうございます。と...」

返信をして既読が着いたのを確認して
再び車窓からの景色を見つめる。
すると車内に出発のアナウンスが鳴りドアが閉まる。

出発だ。
電車がゆっくりと走り出した瞬間。
外から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
車窓を覗くと先輩が走っていた。

「先輩!?」
先輩は大きな声で叫んで何かを伝えようとした。

正直何を言っているかわかんなかった。
けど先輩の顔は笑顔で僕を見送ってくれた。

「...また会いましょう。先輩。」
きっと先輩がそう言ったことを信じてボソッと声が漏れる。

電車は勢いに乗ってスピードをあげる。
本当に、一人暮らし生活が始まった。

語り部シルヴァ

3/30/2025, 10:14:21 AM

『春風とともに』

その人は突然現れた。

街を支配しようとする悪い王様に頭を抱えていた僕たち。
抵抗しようにも何十、何百もの兵士を持つ王様に
一般人の僕たちはどうしようもなかった。

そんなとき、1人の旅人がやってきた。
できる限りのおもてなしをした。
僕が数ヶ月我慢してやっと食べれる
乾いたパンを旅人にあげる。
旅人はそのパンをちぎり半分僕に譲ってくれた。

「お気に召しませんでしたか?」
「いや、ご飯はみんなで食べる方が美味しいからね。
このパンの半分を君と分け合う方が嬉しいよ。」

おもてなしをするはずの相手に優しくされて
思わず泣きそうになる。
そんな様子を見てか村人はパンをかじり
僕の家を出ようとする。
「それじゃあ王様をやっつけてくるよ。」
「えっ、旅人なのにどうしてそこまで...」

「君がお腹いっぱい食べて喜ぶ顔が見たいから。」
旅人は行ってきますと笑顔で僕の家を出ていった。

これは春風とともに現れ、僕たちを助けてくれた旅人のお話。

語り部シルヴァ

3/29/2025, 10:44:19 AM

『涙』

夕日が咲いた桜たちを照らしながら沈んでいく。
この時間に散歩するのが日課になった僕たちは
今日も一日楽しかったと振り返りながら
オレンジ色に染まりつつある公園を歩く。

昔は好きじゃなかった夕焼けも
君と一緒だからか好きになってきた。
そんな君となら、
これからもお互い幸せになれるかもしれない。
そう思い今日はちゃんと伝える日だ...。

散歩道の折り返し地点。
少し高い位置にあるここは人通りが少ない。よし...

「あのさ。」
「うん?」
「これからもずっと一緒に散歩したりしてくれないかな?」

そう言いながら結婚指輪を見せる。
君は口を覆い驚いていた。次第に目が滲んでいく。
「そんなに泣く!?」
驚いていると君は目を擦りながら答える。

「違うの、花粉症今来たっぽい。」

語り部シルヴァ

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