『記憶』
今年の桜は気持ち早めに咲き始めた。
春の陽気と桜の雨。雲ひとつない青空をピンク色で
染めてしまいそうなほどに花びらは宙を舞う。
君の今にも泣き出してしまいそうな声が聞こえそうだ。
残念ながら桜にはいい思い出がない状態だ。
と言っても僕が余計なことを言ってしまったからだ。
高3の頃、、昼休みに教室を出て桜を見ていた。
その時の恋人が僕の背中を追いかけてきて一緒に桜を見た。
高3だから「この桜を見るのも最後だね。」
と言うと君は
「来年も見ようよ。絶対。」
なんて泣きそうな声で言っていた。
僕らはそっと手を繋いで春の陽気に当たって見ていた。
片方は地面にしかれたピンクのカーペットを、
片方は青空を覆うピンクのカーテンを。
でも、二人の視界にはピンク色なんて
見えていなかっただろう。
どっちもブルーな感情に塗りつぶされていたから...
あの日君が言った約束も守れなかった、
僕の不甲斐ない記憶の一欠片。
その記憶の一欠片が日常で見かけるものを嫌いにしていく。
あぁ、早く春が終わって欲しい。
語り部シルヴァ
『もう二度と』
残業で遅くなった帰り道。ふとバイクを止める。
道の端に止まってエンジンを切って春風を感じる。
晩御飯の香りに混じってどこか懐かしい匂いがする。
なんだろう...
目を瞑って唸っているとお腹が鳴った。
帰路の途中だったことを思い出して帰りを急いだ。
走ってるときにも懐かしい匂いが鼻を誘う。
なんだっけこの匂い...
夕焼け、懐かしい...
あ、そうだ思い出した。高校生の頃の帰り道だ。
当時付き合っていた恋人と学校帰りに
恋人を家まで送った時にあった匂いだ。
あれから何年経ったんだろう...
それでも思い出すのは高校生の思い出が
それほど大事だからで、今でも愛おしい記憶なんだろう。
もう二度と、戻らない時間。
だから愛おしくて、求めてしまう。
まだ日が沈むと寒い...視界が滲む前に早く帰ろう。
バイクの速度をあげて急いで家に向かった。
語り部シルヴァ
『曇り』
灰色の空が覆う。
暖かくなったと思ったらどんよりしていて、
むしろ少し変な汗が出そうだ。
雨よりも嫌いな曇り空。
晴れか雨かどっちつかずな空。
私みたいな優柔不断って感じだから嫌いだろう。
同族嫌悪...ってやつなんだろう。
頭痛がしてきた...低気圧のせいだろうか。
あーあ、本当にやだ。
せっかくの春なのに...
こうなったらもう昼過ぎだけど寝よう。
明日の授業は昼からだし夜に起きたとしても大丈夫だろう。
嫌いな曇りと無理に向き合う必要は無い。
曇りと同じくらいモヤモヤした心も
寝れば晴れると信じて私はベッドの布団に潜り込んだ。
語り部シルヴァ
『bye bye...』
「よし、これで大丈夫...と。」
軽トラの荷台のロックをしっかりとした。
ひょこっと君が顔を出す。
「車出ると危ないから乗り出しちゃダメだよ?」
元気よく返事してから君は友達の元に奥へと行った。
長い付き合いだった...
こんなに立派に育ってくれて嬉しい半面、
別れが来るとこうも辛いのか...
それでも最初から別れる運命だった。受け入れないと...
「そろそろ出発します。大丈夫ですか?」
運転手が確認を取ってきたので
チェックリストを確認する。
「...はい。大丈夫です。お願いします。」
深く頭を下げると運転手は帽子の唾を少し上にあげながら
「わかりました。では失礼します。」
と運転席に座り軽トラのエンジンをかけた。
ゆっくりと走り出す軽トラに俺は大きな声で叫ぶ。
「今までありがとうな!!じゃあな!」
俺の言葉に反応したのか、君は元気よく
「ブー!!」と返してくれた。
語り部シルヴァ
『君と見た景色』
普通棟と工業棟の間の外階段を上がる。
四階までしかないが
最上階まで辿り着いた時には軽く息が上がる。
誰もいないことを確認してマスクをずらし深く呼吸をする。
暖かくなった春の風が美味しく感じる。
呼吸を整えて落下防止の壁に体を預けて外の景色を一望する。
中庭、学校全体、学校の向こうの景色。
そして赤く染まり始めた空と夕陽。
長期休みやテスト期間じゃないと
誰も来ないという条件付きだがここは僕の穴場だ。
「あ、もう来てたんだ。」いや、僕たちの穴場だった。
友人とはクラスメイトの同じ趣味をきっかけに仲良くなった。
昼休みに一緒にゲームをするくらいには仲良くなり、
こうやって時間外でも話すようになった。
ただ2人とも内向的でみんなのいる場所で話すのは恥ずかしく
こうして穴場で景色を見ながらお互いの好きについて
語り合う仲になったというわけだ。
ただ学校内ということもありあまり長く話すことはできず、
長くて一時間程度しか話せない。
この短い時間をお互い大切にしている。
2人で景色について、ゲームについて、学校について...
色んな話をしてきた。
こうやって卒業するまで2人で語ることになるんだろう。
夕焼け空に照らされながら微笑む君と見るこの景色と一緒に...
語り部シルヴァ