『手を繋いで』
小さい頃から手を繋ぐのが当たり前だった。
お互いの両親が笑うのもあったけど、
幼馴染の君が喜んでくれるからずっと手を繋いでいた。
けど思春期と呼ばれる今、
手は繋ぐことは無くなってしまった。
厳密に言えば向こうが断ってきた。
「流石に恥ずかしい。」その一言から幼馴染は
隣すら歩かなくなった。今日も1人で帰っている途中だ。
俺も恥ずかしいのはわかっている。
今まで繋いでいたものが無くなると寂しくなる。
また...
なんて考えていると親から電話がかかってきた。
「もしもs」「幼馴染ちゃんの両親が...!!」
言われた病院まで走り病室まで走る。
肩で息をしながら病室のドアを開けると
俺の両親と幼馴染がそこにいた。
心電図が一定音を立てて医師と看護師が慌てていた。
「貴方たちは一旦外にいなさい。」
何が何だかわからないまま両親に廊下に放り出され
近くの椅子に腰掛ける。
さっきまで暑かった体は一気に冷めてしまった。
背中が騒がしい一方で幼馴染とは静かな空気が流れている。
気になって幼馴染の顔を覗くと、
とても暗い表情をしていた。俺に出来ることは...
はっと思いつき幼馴染の手を優しく包む。
(嫌なら振りほどいてくれ...)
そう思いながら幼馴染の手に触れる。
幼馴染を見ずまっすぐと向かいの病室のドアを見つめていると、隣から鼻をすする音が聞こえてきた。
そっと手を繋ぐと幼馴染が力強く握り返す。
深呼吸して幼馴染の方を見ずに幼馴染に伝えた。
「これからは俺が支える。
また昔みたいに手を取り合っていこう。」
「うん、ありがとう。」
幼馴染の声は鼻声で悲しそうだが、
どこか安心してそうだった。
語り部シルヴァ
『どこ?』
ある日散歩中に携帯が落ちていた。
どうしてかそれがとても気になって拾い上げた。
連絡帳などを見ていると
着信がかかり思わず電話に出てしまった。
「も、もしもし?」
"お?良かった〜。それ僕の携帯電話なんだ。
どこに落ちてた?"
「薬局近くだよ。あのよこしまが目印の。」
"あー!わかったよ!向かいに病院があったよね!
すぐ行くからちょっと待ってね!"
そう言うと電話は切れた。
どんな人なのか、服装は...
聞きたいことがあったから履歴を確認したが
どうやらこの携帯は履歴が残らないようだ。
そもそも相手側は公衆電話からかもしれないけど...
...春の陽気が眠気を誘う。
早く来てくれないかな。眠くなってきた。
まだ来ない。薬局を背に心地いい日光が当たる。
ん...?そういえばあの人向かいに病院があるって...
薬局の向かいは俺が生まれてからずっと空き地だったような...
あの人はどこにいるんだ...?
語り部シルヴァ
『大好き』
のんびり昼まで寝ること。
美味しいご飯をいっぱい食べること。
お昼寝すること。
一晩中映画を見ながらお菓子を食べること。
好きな曲を聴きながらお風呂で歌うこと。
綺麗な景色を見に旅に出ること。
床に赤い花を咲かせること。
お薬で気持ちがふわふわすること。
君の温もりを感じること。
君で私を満たすこと。
私の大好きなこと。
そして何よりも大好きなことが、
君との時間を共有できること。
毎日が大好きで染っていくと嬉しいな。
語り部シルヴァ
『叶わぬ夢』
「お疲れ様。今日も頑張ってたね。」
「先輩お疲れ様です!これくらい全然ですよ!もっと頑張らないと!」
「熱心だね。応援してる。」
男女の仲睦まじい景色。先輩と後輩のザ・青春な世界に思わず羨ましいと感じてしまう。
私もあんなふうに青春を謳歌したい。
...私には叶わない夢だ。
「あ、お疲れ!今日も大変だったね〜。」
私を見つけて飛んでくる。犬みたいで可愛い。
「はいはいお疲れ。私汗臭いからそんな引っ付かないで。」
そんなことないよ〜と顔を擦るように私に引っ付く。
やれやれと思いつつ満更でもないこの感情に任せて頭を撫でる。
しっぽがあったらちぎれんばかりに振っているくらいに喜ぶ。
「青春だなー。」
「うん?どうしたの?」
「いや、別に。」
本当は君みたいに甘い恋が出来たらよかったのにな。
女同士だなんて言えば君はきっと離れていく。
だから、だから...
こんな風にずっと引っ付いてね。
君の頭をまた撫でる。
君はふにゃっとした笑顔で私を見つめた。
語り部シルヴァ
『花の香りと共に』
桜まんじゅう、季節の桜風味の和菓子、
桜のフレーバーティー。
世まだ咲いていない桜を一足先にと
スーパーは桜に関する商品を続々と出していた。
食べ物だけじゃなく家具は桜模様だったり、
服は淡いピンク色が流行っているらしい。
中でも後で香るだろう桜の香水は絶賛人気中らしく、
在庫が追いついていないというPOPまで飾られていた。
あと2週間も経たないうちに
桜が咲いてお花見のシーズンがやってくる。
みんなその浮いてしまう気持ちを
商品を買ったりしてなだめているのだろう。
そういう風に考えれば経済はいい感じに
回っているのだと思う。
商店街も街並みも桜色で飾られた世界は
何もしていなくても心が少し明るくなる気がする。
あと少しで本場の香りがやってくる。
今は僕も気持ちだけ桜の季節を一足先に味わっておこう。
桜まんじゅうを買い物かごに入れて会計へと向かった。
語り部シルヴァ