『あの日の温もり』
消防車とパトカーのランプが眩しく照らす。
現場は物珍しさで見に来た外野と消防活動をやってる消防士、
外野を抑える警察官。
みんな私が付けた炎を見に来ている。
どうかな?初めて付けた火は綺麗?
私が犯人だと知らない今近くに放火魔がいる気分はどう?
でも仕方ないよね。私よりも別の人を愛すると言い出した人は地獄の業火で焼かれてしまえばいい。
むしろこれくらい生ぬるいと思う。
死んでから燃やすより生かしたまま燃やせばよかった。
...次の参考程度に覚えておこう。
炎の勢いは増すばかり。ガスに油にいっぱい用意したからね。
少し遠目の場所からでも肌が少し焦げるくらいの熱さが伝わってくる。
もう、あの日に感じた温もりは忘れちゃった。
こんな煮え滾る感情はこんな炎じゃ燃やし尽くせないね。
語り部シルヴァ
『cute!』
残業が長くてフラフラしながら帰る道中、
電灯が点滅する下で電柱に隠れた猫ちゃんを見つけた。
おそらく残業疲れによる鬼の形相のような顔で猫ちゃんを怖がらせるかもしれない。
だから遠目で猫ちゃんを見ようと薄暗い中しゃがんで猫ちゃんを見る。私に気づいて警戒しているからか電柱の影からじっとしている。
まんまるとしたフォルム。電灯の光で照らされる茶色い毛並み。
うーんここから見ても可愛い。
近くで見たらどんな顔しているんだろう。
いっぱい撫でたい。けど近づけない。
おやつでも持っていれば良かった。今度常備しておこう。
すると夜風が吹いて猫ちゃんが動き出した。
...かに見えたそれはコンビニのレジ袋だった。
私は相当疲れているようだ。
重い腰を持ち上げて家へと向かった。
語り部シルヴァ
『記録』
旅行に行くとお土産コーナーや
旅館に置いてある落書き帳をふと見てしまう。
とても丁寧な字で書かれた感想。
時は汚いけど元気さが伝わってくる内容。
カラフルな色を使ったイラスト。
様々な筆跡がここに集まっている。
色んな人がここに来て色んなことを書いている。
当たり前のことだが、
それを見るのがとても好きだ。
まるで一緒に旅をして、
気持ちを共有できてる気がして
嬉しいと思うのは私だけだろうか。
なんて頭で誰にも聞かれない独り言を
並べていると、今来てる観光地の落書き帳に
なんだか私も書きたくなってきた。
というのも私は見るだけで書くことが無い。
でもなぜか今日は書きたいと思った。
"お世話になりました。
素敵な場所でまた来たいと思います。"
書いてるところを見られたら恥ずかしいと感じて
殴り書きになってしまった。
こんな内容でも誰かと共有出来たらいいな。
そう願いながら観光地を早足で出ることにした。
語り部シルヴァ
『さぁ冒険だ』
"白紙だったノートの左上に初めて日付を書く。
最初というのは妙に丁寧さが意識づいて余計に字が変になる。
今日の日付、天気を書いて...何を書こうか。
『今日から旅の始まり。
思ったよりもワクワクよりきんちょうが強い。
どこへ行くかも決まってないから
とりあえず行ってみたかった場所へ行こうかな。まずは...』
とだけ書いた。
どこへ行くかは今決める。
そしてどこへ行ったかは明日の自分が書いてくれる。
完全に明日の自分に丸投げだ。
カフェの机に
行ってみたいリストにまとめていた場所を並べる。
滝だったり温泉だったり違う国だったり...
実際に見るとどんな感じなんだろう。
匂いは。温度は。風の匂いは。
考えるだけでこの冒険をより彩れるような気がしてきた。
よし、そろそろ行こう。
目的地を決めてカフェを後にした。"
語り部シルヴァ
『一輪の花』
ライターで火を付けると、勢いよく燃え上がり
キラキラとした火花が弾ける。
花火を見つめる君の目は火花が反射してキラキラしている。
夜中暇だったからこの友人を叩き起して
河川敷で花火をすることにした。
偶然昨年出来なかった花火セットを持っていた。
やるからには安全大事にとバケツと場所選びをしてくれた君。
なんだか君の方が楽しみだったんじゃない?
なんてからかい混じりで聞くと、
お前はすぐ危なっかしいことするからだ。
と河川敷の水を汲みながら君は答えた。
なんだかんだ面倒見のいい君に甘えてる。
君がいいと言ったんだから君を信じてるだけ。
「ねえ、これもやるの?」
花火を見つめながらぼーっとしていると君は
打ち上げ花火を持ってまさかと言う顔でこちらを見ている。
「やんなきゃ花火って言わないでしょ?」
火をつけて少しすると打ち上がった花火が小さく弾けた。
真っ暗な空に打ち上がった花は乾いた空に散り際を響かせた。
語り部シルヴァ