『飛べない翼』
窓から空を眺めているとガラガラした鳴き声が聞こえた。
友人が窓越しにやってきて話しかける。
「お前、また空を眺めてるのか。」
「うん。君や他の子が空を飛んでるのが羨ましくって...」
「そんなに飛びたいなら飛べばいいだろ。」
「私の"これ"は飛ぶためにはついてないみたい。
それに...こんな狭い檻の中じゃ
羽を伸ばすことすらできない。」
「まだご飯に困らず寝る余裕があるから
俺もお前が羨ましいけどな。」
飯を探してくる。じゃあな。
とガラガラ声の友人は去っていった。
私は...。
普段ヒトがご飯を出してくる檻の入口をガジガジと噛む。
けれど檻はビクともしない。
...私はやっぱり飛べないんだ。
この小さな檻で永遠に生きるんだろう...
窓からさす陽の光はどうしても温もりが感じられなかった。
語り部シルヴァ
『ススキ』
随分と遅くなってしまった帰り道。
明日は休みだから焦って帰る必要も無い。
空は晴れていて時折流れる雲が夜空と星を隠す。
のんびり歩いているとススキを見つけた。
いつも歩く帰り道なのに気が付かなかった。
ススキといえば十五夜のお月見に
添えられているイメージだった。
案外どこにも生えているのかもしれない。
十五夜の満月が目立ちすぎているから
影が薄くなっているだけだろうか。
1本引き抜こうとしたが小さい頃に手を
ズタズタにされたことを思い出して手が止まる。
いや影が薄い上に引き抜かれるのは可哀想だ。
なんて頭で言い訳しながら帰り道を歩き始めた。
ススキの擦れる音が静かな夜に添えられる。
前言撤回。ススキは充分秋の主人公じゃないか。
語り部シルヴァ
『脳裏』
あの出来事は最悪だった。
友達だと思っていた相手に急に押し倒されて
抵抗も虚しく終わってしまったあの日。
相手からの好意がこれほど
悪い方向に向かうことがあるのかと初めて知った。
それと同時に相手を好きになることは
相手に迷惑をかけることと思うようになってしまった。
好きな人がいてもその好意が
相手を傷つけてしまうんじゃないか。
人を好きになんてなれないし、
なってはいけないとも考えるようになった。
あの日の出来事がどうしても脳裏によぎってしまう。
友人という皮を被った何かの血走った目を。
興奮して手首を強く握られたあの感覚を...
相手にそういうことをしてしまったりされる可能性が
少しでもあるのなら...
私は1人でいい。
語り部シルヴァ
『意味がないこと』
「いつもありがと!じゃーねー!」
そう言いながら女性は手を振って人混みの中に消えていった。
「お前...人付き合いは
もうちょっと考えた方がいいんじゃないか...?」
その様子を見ていた友人は呆れたように問いかける。
「あの人結構人を都合良いように使うんだっけ?
まぁ僕は使われたと言うよりかは
好きでやったから気にしないよ。」
その返答に友人はまた呆れるもふふっと笑いながら
「お前のいいところだけどさ...」
と言いつつ最新作のゲームの話を振ってくれた。
優しい友人が隣にいてくれて嬉しい限りだ。
あの行為はこれからも周りから無意味だと言われるんだろう。
悪人に手を貸すなんてと悪態をつく人だっているだろう。
けれどこれが僕だ。
誰に言われても曲げない僕自身の"芯"のようなもの。
たとえ無意味だったとしても
やらずに後悔するよりかマシなんだ。
たとえ無意味でも、エゴでも...
語り部シルヴァ
『あなたとわたし』
あなたはいつも手が冷たい。
でも「手が冷たい人は心が暖かい」って言ってたからあなたに抱きつくとひんやりと冷たい内に
じんわりとした暖かさが伝わってくる気がする。
少し肌荒れが見えるけど、
それが気にならないくらいあなたは綺麗。
私にハグをされるあなたはクールぶってるけど
平静を保とうとしてくれていた。
いつのあと一歩のところを我慢していたのは知っていた。
だからあえて薄着で誘ってみたりさりげなくその気にさせたのにあなたはクールぶって抑えていた。
そんなあなたの手に触れることができる私は
幸せなんだろうか。
あなたの手を借りて私の頭を撫でさせる。
冷たい手からは愛を微量ながらに感じとれる。...気がする。
あなたとわたし。2人は今日もずっと一緒にいる。
明日も、これからもずっと...
語り部シルヴァ