『一筋の光』
お先真っ暗。
今の自分に相応しい言葉。
お金もあまりない。職も安定しない。
恋人もいない...
友達が充実している生活をSNSに投稿しているのを見かけると
自分にはどうしてなにもないんだろうと思うばかり。
友達を妬む暇があれば自分を磨けばいいのもわかっている...
けど結局何も得れないから諦める。
...ひとつ。希望のようなものがあるとするなら。
通知音が鳴りスマホを確認する。
趣味の界隈で人気者の人と連絡を取りあっている。
何気ない会話も自分の生きる力になる。
きっと僕なんかただのモブに見られているだろう...
それでも...勝手に縋らせて欲しい。
君の通知でにやける僕は傍から見てもきっと惨めだろう。
そんなことが気にならないくらい君の存在は大きいんだよ。
語り部シルヴァ
『哀愁を誘う』
「...」
朝から違和感があった。
目覚めたときの喉の乾き具合、妙に冷えた体。
...無臭で冷たい風。
外に出たときに答え合わせができてしまった。
近くに金木犀が咲いていて、
散歩の始まりを秋風と一緒に背中を押してくれていた。
そんな金木犀の香りはしなくなっていた。
金木犀は冬へと変貌した風にほとんどたたき落とされていた。
小さくて愛らしい花だから余計に悲しく感じる。
一輪つまみあげる。
...もう香りはしないが、綺麗な花だ。
今年も香りと愛らしい花を咲かせてくれてありがとう。
花を仲間たちの所へと戻し、寂しくなった世界を歩き始めた。
語り部シルヴァ
『鏡の中の自分』
夜中にふと目が覚めた。
トイレに行ったあとに洗面台で手を洗う。
ふと気になって鏡をじーっと見つめる。
寝ぼけただらしない顔。
明日も学校と考えるとだるい。
余計に脱力してだらしない顔に...
鏡の自分もだらしない顔に。
鏡の中の自分が羨ましい。
そう思いながらベッドに戻ろうと鏡に背を向けると、
コンコン。と固いものをノックする音が聞こえた。
振り返ると鏡から手が伸びてて、寝巻きの胸ぐらを掴まれた。
「なら、入れ替わってやるよ。
俺が鏡の前に来ない限りお前は存在しなくなるけどな。」
不気味な声で喋りながら僕は
ゆっくり鏡の中に引きずり込まれた。
それと同時に僕そっくりの何かが
鏡の外へ出て言ったような気がした。
鏡の中に完全に入った瞬間、意識がプツンと切れた。
語り部シルヴァ
『眠りにつく前に』
日記も書いた。
明日の準備も終わらせた。
今日やることは全部済ませた。
あとは...
窓を開けて外の夜風を浴びる。
ひんやり冷たく、どこからか金木犀の匂いがする。
この時期の夜風はいわゆる期間限定だ。
ちょっと寒いけど、気がつけば終わってしまうから
1日たりとも欠かさず浴びる。
それに布団が暖かく感じて眠りにつきやすい...
ずっと吹いていて欲しいが、
金木犀の咲いてる期間はとてつもなく短い。
あの匂いが無くなった日の夜風はとても寂しく感じるだろう。
そんな寂しさが増すように
今日も金木犀を纏った夜風を浴びる。
体が芯まで冷えていく。
よし、そろそろ寝ようかな。
寝間着が凍るような冷たさと金木犀の香りを
夜風からおすそ分けしてもらった。
今日もよく眠れそうだ。
語り部シルヴァ
『永遠に』
今日はなんて日なんだろうか。
朝早くから彼女にプレゼントを貰って日中は
授業も無く彼女の家で夜までのんびり。
夜に贅沢にピザを出前で頼んでパーティ。
お風呂に入って2人でベッドを温める...
自分がただ生まれただけなのに
これほど幸せなことがあっていいんだろうか。
天井を不安そうに眺めているのを勘づかれたか、
彼女は眠たそうな声で「幸せになっていいんだよ。」
と囁いた。
お礼に頭を撫でると彼女は直に寝息をついた。
すぅすぅと可愛い寝息。
愛らしいその顔を見ていると不安も晴れていく。
きっと誕生日じゃなくても彼女は
こう答えてくれていただろう。
もう主人公の時間は終わる。
残りは彼女の温もりを感じながら過ごすことにした。
永遠に...こんな幸せがずっと続くことを願って...
語り部シルヴァ