『理想郷』
世界が一から生まれ治ればよりよい世界になるだろうか。
瓦礫の山をよじ登り閑散とした荒地は人の気配すらない。
巻き上げる砂埃。
寒くなってきた風に砂粒が肌に刺さる。
目に入れば痛いで済むだろうか...
遠くの方で爆弾が爆発した音が聞こえる。
その後に吹く風は爆風だろう...
少し歩けば銃撃と悲鳴。もう少し歩けば怒号と鳴き声。
俺にもっと力があれば、瓦礫の山は富の山へと変えれたのだろうか。銃撃と悲鳴はパーティクラッカーと笑い声に...
俺がもっと力を持っていれば...世界を一からやり直せれる力があれば...
こんなゴミだめの世界を一掃して一から平和な世界を作れたのだろうか。
体力の限界で瓦礫の山のてっぺんで俺は意識を失った。
語り部シルヴァ
『懐かしく思うこと』
20241031
いつもの帰り道...のはずが、どうも賑やかだ。
仮装をしてはしゃぐ子供が多い。
...あぁそうか。今日はハロウィンか。
社会人にもなると時間感覚もイベント事も
関わりも興味も薄れてしまった。
最後にハロウィンを楽しんだのはいつだったかな...
数年前の記憶てあんまり覚えてないもんだ。
年甲斐もなく季節のイベント事を楽しめるような仲がいれば
変わったかもしれない...
が、あいにくぼっちな自分には縁のなかった話だ。
昔の思い出に老けているとスーツを引っ張られる感覚がした。
振り向くと仮装した子供が元気よくトリックオアトリート!
と叫ぶ。
「ごめんね。お菓子持ってないんだ...」
優しく微笑みかけたが現実は非情だ。
家に帰るまで永遠とひざかっくんをされた。
語り部シルヴァ
『もう1つの物語』
20241030
世界は平和に包まれた。
魔王が滅び、魔族は隠れながら
ひっそりと生きることになるだろう。
王国では今宵パレードが開かれるらしい。
朝からバタバタしてる人達でいっぱいだ。
正直...勝手な正義で魔王はやられたような気がする。
魔王は魔王なりの平和で勇者に話を持ちかけたはずだ。
だが勇者は魔王の話に耳を貸さずそのまま戦いに...
魔王...もとい魔族は元から世界征服には興味がなかった。
ある事件が起こるまでは...
魔王城だった場所の地下奥深く。
ずっと、ずっと深い先に隠れた書庫があった。
ホコリをはたいてタイトルを確認する。
『魔族と人間の歴史』。
この世界の物語が始まるずっと前の、
魔族と人間が主人公で世界平和を目指す物語。
...人間が平和を壊して終わる物語。
語り部シルヴァ
『暗がりの中で』
20241029
布団を頭まで被り目をぎゅっと瞑る。
...ダメだ。やっぱり寝れない。
諦めて目を開けて真っ暗な世界を見つめる。
布団から手を伸ばしスマホを手探りで探す。
いつもの手触りを見つけ布団に引き込む。
スマホは布団の中の世界を眩しく輝かせる。
...目が痛いから優しい明るさに設定する。
特に興味のない内容の投稿を流していく。
晒し系、惚気話、愚痴...
みんな各々のことを呟いている。
...あんまり興味が無い。
薄い内容ばかりであくびが出てきた。
このまま眠れそうだ...
布団の中の世界はまた暗くなる。
朝まで眠れると...いい...な。
語り部シルヴァ
紅茶の香り
ずっと前から気になっていた同僚と
ついにお茶をすることが出来た。
折角なら私の行きつけの場所にしようと言い
相手の行きつけのカフェに行くことになった。
静かな雰囲気だが優しい日差しが差し込み、
入っただけでも落ち着く...
相手はシフォンケーキを、僕はチーズケーキを頼んだ。
前日まで話題や身振りを予習したはずだけど、
どうも緊張して全部上手くいく気がしない。
緊張して黙々とケーキを食べていると
相手が話を振ってくれた。
「ここ...最初は気付かなかったんです。
仕事で無性に落ち着ける場所が欲しい...
そう考えながら気晴らしの散歩の途中に見つけたんです。
顔見知りもいないので伸び伸びとケーキと紅茶を
楽しめるのが心地よくて好きなんですよね。」
「そうなんですね...
そんな穴場みたいなのを僕に教えてもいいんですか?」
「大丈夫ですよ。
だってあなたにずっと教えたかったんですから。」
ふふっと照れくさそうに笑いながら相手は
一緒に頼んだアールグレイを少し冷まして1口飲む。
ふんわり香るアールグレイが似合う相手に心臓がうるさくて
ケーキも紅茶も味がしない。
強いて言えば...恋の味がこういうのなんだろうと
無理やり解釈した。
語り部シルヴァ