愛言葉
「だよねー...ってもうこんな時間か...明日大丈夫?」
「あ、ちょっとまずいね。ごめん、そろそろ寝るよ。」
時間は既に日付を跨ごうとしていた。
明日もお互い仕事で朝も少し早い。
いつも
電話が楽しくてついつい話し込んでしまう。
さすがに一晩中話すことも電話をずっと繋げるのは
明日に支障が出た場合を考えるとできない。
また明日の夜。
明日も電話できるが、待ち遠しいしそれまで寂しい。
だから...
「「また明日。今日もありがと。」」
声が重なってお互い笑いながら
おやすみを言い合って電話を切った。
僕らのあいことば。
明日の夜のために僕らは頑張れる。
語り部シルヴァ
友達
「ねえねえ!今日は一緒に遊ぼ!」
「ごめん...今日は別のお友達と
あそぶ予定があるからまた明日ね!」
「わかったぁ。ばいばい!」
ばいばい!と手を振りながら走り出す。
校門を出てすぐ左に。
まっすぐ走って山をめざす。
山の神社近くをぐるっと回った先の大きなほらあな。
立ち入りきんしの札の前で立ち止まり、
辺りをキョロキョロ見渡す。
だれもいないことをかくにんしてほらあなに入る。
私の足音と水がはねる音。
遠くからいびきしか聞こえない...
少し歩いてボソッとつぶやく。
「こんにちはねぼすけさん。」
私の声に反応していびきは止まり、
まっくらな奥からモゾモゾと何かが動く。
すでに私の目の前に来ていて大きな体をすりつける。
ザワザワしてて柔らかい毛並み。
「今日もといてあげるね」
ランドセルから少し大きめのクシを取り出してそれに近づくと頭っぽい部分を私の手元に寄せて
さっきのいびきより優しい鼻いきをもらす。
水がはねるの音、やさしい鼻いき、
くらいけどあたたかいひざ...
クシで毛並みを整えているこのしゅんかんが今の楽しみ。
私しか知らない友達とのこの時間が大好きだ。
語り部シルヴァ
行かないで
私は幸せだ...彼氏が向かいに居て
今欲しいものが向こうから流れてくる。
もうお腹いっぱいなのにそれでも体が求めてしまう。
手が勝手に動いて取ってしまう。
そんな私を見て彼が笑う。
あー...すごく眩しい。
でもさすがに次流れて来たら最後にしよう。
さすがに...苦しいや。
幸せすぎるのも苦しいんだ...。
そう思いながら手を伸ばしたが...
タイミングがズレてしまった。
欲しかった"それ"はそのまま流れて行ってしまった。
待って...!!行かないで...!!
私の情けない姿を見て彼はまた笑う。
「回転寿司に来てここまで一喜一憂する人初めて見たよ。」
語り部シルヴァ
どこまでも続く青い空
旅路の途中に茶屋を見つけた。
団子と茶を頼み縁台に腰掛ける。
思っていたよりも足は疲れていたらしく
座った途端足に重みを感じた。
次で宿を探そう。そう思いながらも空を見上げる。
雲ひとつない空はとても綺麗で手に取れるんじゃないかと
思うくらい青い。山がなければ永遠と続いていそうだ。
山が化粧づいてきて綺麗な山吹色になっている。
あと少しすれば紅葉が映えるだろう。
「お待たせ致しました。」
来た団子を1口。程よい甘さと弾力が頬を溶かすようだ。
お茶も苦みが団子と合わさって美味い...
さて、もうひと歩きだ。
宿を目指すのもいいがこの青い空の終点を
見つけるのも面白いかもしれない。
青い空、吹き抜ける風、色付く景色。
秋を噛み締めながら歩き始めた。
語り部シルヴァ
衣替え
外を歩く人達は長袖を着ている人が増えた。
学生はカーディガンを、社会人はスーツを。
ここ天界も一応四季の変化はあって制服が長袖に...
なんてことはなく、長袖の制服なんて着てると
汗だくになるくらいに大忙しだった。
8月の終わり...夏休み明けからどうも仕事が殺到する。
人間界はみんな疲れているようで
こっちの世界に来る人が増えてきた。
それも不思議なのが悪人がほぼ居ないことだ。
こちらにやってきた人間は
根っからの真面目だったり人に優しくできる人間だ。
各々にそれぞれの人生がある。
一人一人の人生を見ながら天国か地獄かに送る仕事も
大変だが、それを案内するのも大変だ。
僕自身カーディガンが好きだから
早く着ながら下界を散歩できる時間が欲しい。
だから....辛いのはわかるけど、死ぬ前に一旦やれることは全部やっとこうね?
語り部シルヴァ