涙の理由
「でさ〜...あの先生がね〜...」
「あ、そうそう、あそこのカフェが〜...」
静かな夕暮れ、誰も来る気配のない校舎裏で
1人の喋り声だけが聞こえる。
...隣の友人はいつもそうだ。
私が落ち込んでいるといつも私がいる場所を見つけては
隣に勝手に座って勝手に喋り出す。
今日あったこと、思い出したこと、私の事。
なんでも目を合わせず空を見ながら話す。
最近は頻度が増えた...というか毎日隣に座っては喋る。
よく話題が尽きないなと思う反面、
他にすることが無いのかと心配してしまうほどだ。
最初こそは嬉しかったけど、
今じゃずっと喋りかけてくれて申し訳なさが強い。
私だってお話したいけど、
私からは話すことも無いしどうせ届かない。
...悔しいなあ。
涙を堪えるため下を向くと友人は独り言のように話した。
「ねえ。気づいてないと思うけど、
私はずっと君のこと見えてるよ。
みんなは君がもう死んで居なくなったって
聞いた時だけざわついてた。
でももうみんな話さなくなった。寂しいじゃんそんなの。
だから私だけでも君の存在を否定しないよ。」
君の声から温もりが伝わってくる気がして、目が暑くなる。
私のことなど気にせず友人は続ける。
「だからさ、どうして泣いてるか教えてよ。」
今まで抑えていた気持ちが溢れ、
小学生のように声をあげて泣きじゃくる。
友人はただ1人、私を肯定してくれていたんだ。
語り部シルヴァ
ココロオドル
外が真っ暗な中、僕らのいる場所は
舞台裏なのに目を瞑りたくなるほど眩しい。
ステージは初めてで、
舞台裏からは僕らの名前を叫ぶ声が聞こえる。
ほんの趣味でアップロードした楽曲が世界でどハマりした。
それも一発屋で終わることなく人気は続いた。
そこから有名な事務所からスカウトされ、
なんとライブのお誘いまで頂いた。
僕らはただ自分の趣味を出しただけなのに、
今はその趣味に沢山の人が便乗してくれている。
こんなに集まってくれる人の期待を無下にしてはいけない。
僕らの登場するタイミングの数分前...
舞台裏でよくある裏で掛け声をするやつを
して眩しいスポットライトの下へと走る。
「みんなー!!今日は楽しもうね!」
最初からテンションが上がる曲を歌い始める。
この場のみんなの心はひとつになり、踊り始める。
さ。宴は今始まったばかりだ。
語り部シルヴァ
束の間の休息
ふぅと一息つき近くの段差に腰掛ける。
タバコを吸いたい気分だがそんな時間もない。
まだまだ日中の日差しが暑い中で
工事現場の制服の中は汗だくだ。
水分補給でちょくちょく小休憩を貰えるが
返って疲れやすくなるのは俺だけだろうか。
他の仲間はだべったり少しでも休むために
目をつぶってるやつもいる。
俺みたいにタバコを吸いたいやつはいないのか。
そう思いながらヘルメットで重い頭を上にあげて空を見る。
雲ひとつない晴天で暑い日差しとは別に
涼しい風が吹いている。
この風が涼しいと感じるのもあとちょっとだろう。
すぐに寒くなってしまうからな...
そう考えると嫌だが、タバコの日で暖を取れるのが楽しみだ。
遠くで小休憩の終わりの合図が聞こえる。
さあ、作業再開だ。
語り部シルヴァ
力を込めて
夕陽が差し込む屋上は、
少し離れたところで吹奏楽部の音色が静かに響く。
いつも気になってる先生に忘れ物をしたと嘘をついては
こうして屋上で吹奏楽部の演奏を聴くのが最近の楽しみ。
普段から話しかけてるおかげか、
先生も私の嘘を嘘と知って鍵を貸してくれる。
空気が乾燥してると音が響きやすくなるから
空にいっぱい音が広がる。
心地よい...
そう目を瞑りながら聞いていると
入ってきた屋上に扉が開く音がした。
焦って振り向くと鍵を貸してくれる先生がいた。
「えっと...先生、どうしました...?」
「いえ、あなたがいつも屋上に行く理由がふと気になって...
来てみました。」
...ドキドキする。寒くなってきたせいかな。
顔も赤くなってきた。
「なるほど、吹奏楽の演奏を聴いてたんですね。」
屋上の転落防止の柵に身を預けて
目を閉じて演奏を聴く姿は絵になる。
こんなタイミングで先生が来るなんて思わなかった。
もう...伝えてもいいかな。
結果は分かりきってるけど、伝えないと後悔する。
「あの...!!」
少し裏返ったが先生はからかわずに
なんでしょうと聞いてきた。
私はお腹に思い切り力を込めて気持ちを伝えた。
吹奏楽の音はピタッと止まったせいで私の声は
学校中に響いただろう。
語り部シルヴァ
過ぎた日を思う
秋の匂いが深まる。
...散々嫌だった夏が少し恋しくなる。
夏は嫌いだ。
少し動けば汗をかくしセミの鳴き声は頭痛がする。
洗濯物が乾くからと外に干せば夕立にあう。
夜は寝苦しいし日焼けしてしまう。
本当夏は散々な目にあう。
だから嫌いだ。
それなのに秋が深まって、暑さは汗と一緒に風に飛ばされて
セミのいない毎日は静かで寂しさを感じる。
洗濯物は乾きにくくなって夜は肌寒い。
私がわがままなだけだろうか。
夜風を浴びて真っ暗な夜空を見てると
おっきい入道雲を思い出す。
また真夏の暑い空の下で冷たいアイスを食べたい。
また来年まで待ち焦がれることになるんだろうね。
語り部シルヴァ