束の間の休息
ふぅと一息つき近くの段差に腰掛ける。
タバコを吸いたい気分だがそんな時間もない。
まだまだ日中の日差しが暑い中で
工事現場の制服の中は汗だくだ。
水分補給でちょくちょく小休憩を貰えるが
返って疲れやすくなるのは俺だけだろうか。
他の仲間はだべったり少しでも休むために
目をつぶってるやつもいる。
俺みたいにタバコを吸いたいやつはいないのか。
そう思いながらヘルメットで重い頭を上にあげて空を見る。
雲ひとつない晴天で暑い日差しとは別に
涼しい風が吹いている。
この風が涼しいと感じるのもあとちょっとだろう。
すぐに寒くなってしまうからな...
そう考えると嫌だが、タバコの日で暖を取れるのが楽しみだ。
遠くで小休憩の終わりの合図が聞こえる。
さあ、作業再開だ。
語り部シルヴァ
力を込めて
夕陽が差し込む屋上は、
少し離れたところで吹奏楽部の音色が静かに響く。
いつも気になってる先生に忘れ物をしたと嘘をついては
こうして屋上で吹奏楽部の演奏を聴くのが最近の楽しみ。
普段から話しかけてるおかげか、
先生も私の嘘を嘘と知って鍵を貸してくれる。
空気が乾燥してると音が響きやすくなるから
空にいっぱい音が広がる。
心地よい...
そう目を瞑りながら聞いていると
入ってきた屋上に扉が開く音がした。
焦って振り向くと鍵を貸してくれる先生がいた。
「えっと...先生、どうしました...?」
「いえ、あなたがいつも屋上に行く理由がふと気になって...
来てみました。」
...ドキドキする。寒くなってきたせいかな。
顔も赤くなってきた。
「なるほど、吹奏楽の演奏を聴いてたんですね。」
屋上の転落防止の柵に身を預けて
目を閉じて演奏を聴く姿は絵になる。
こんなタイミングで先生が来るなんて思わなかった。
もう...伝えてもいいかな。
結果は分かりきってるけど、伝えないと後悔する。
「あの...!!」
少し裏返ったが先生はからかわずに
なんでしょうと聞いてきた。
私はお腹に思い切り力を込めて気持ちを伝えた。
吹奏楽の音はピタッと止まったせいで私の声は
学校中に響いただろう。
語り部シルヴァ
過ぎた日を思う
秋の匂いが深まる。
...散々嫌だった夏が少し恋しくなる。
夏は嫌いだ。
少し動けば汗をかくしセミの鳴き声は頭痛がする。
洗濯物が乾くからと外に干せば夕立にあう。
夜は寝苦しいし日焼けしてしまう。
本当夏は散々な目にあう。
だから嫌いだ。
それなのに秋が深まって、暑さは汗と一緒に風に飛ばされて
セミのいない毎日は静かで寂しさを感じる。
洗濯物は乾きにくくなって夜は肌寒い。
私がわがままなだけだろうか。
夜風を浴びて真っ暗な夜空を見てると
おっきい入道雲を思い出す。
また真夏の暑い空の下で冷たいアイスを食べたい。
また来年まで待ち焦がれることになるんだろうね。
語り部シルヴァ
星座
あれは...やぎ座、うお座、おひつじ座。
他より少し明るい星と星を繋ぎ合わせ
それっぽい形を作る。
真っ暗な夜空というキャンパスに描かれた星々や
星座の神秘的な魅力ならどれほど語れるだろうか。
田舎は何も無くて暇を持て余す分、
自然の魅力を最大限まで感じ取れるのはいい。
ただ語る相手がジジババしかいないし
みんな寝ている...
だから一人静かに星を眺める。
月明かりでぼんやり明るい静寂な夜に
チカチカと光る星。
目を閉じれば宇宙にいるようだ。
しかし目を閉じれば星々や星座を楽しめれない。
目を閉じても宇宙じゃないんだ。
これらが朝日で消えちゃう前に
しっかりと目に焼き付けよう。
そうしてまた夜空を見上げた。
視界から溢れんばかりの星々は
変わらず優しく輝いていた。
語り部シルヴァ
踊りませんか?
木の角材を何重にも重ねた大きな炎の柱が優しく燃えている。
優しい炎の周りを何十組もの男女ペアが楽しそうに踊る。
丁寧に踊る組、写真で自分をたてる組、
ふざけてウケを狙う組...
色んな組が炎の明かりに照らされる。
文化祭の打ち上げ、というか本日のメインディッシュと
言えるくらいの恒例行事。
大きなキャンプファイアを真ん中に男女ペアが踊る光景は
2年目だけど圧巻だ。
きっとこの日のためにあそこで踊っている男女は
自分磨きに相手の好感度をあげたのだろう。
俺はと言うと...1人でその景色を少し離れた所で見ている。
大きい炎のせいか離れてても温かさが伝わる。
1人の理由は特にない。
仲のいい女子どころか男子の友人も壊滅的に少ない。
その友人も友人の友人のもとへ行ってしまった。
こうやって1人になってるのは
自分が努力しなかった結果だろう。
別に哀しさとかはないけど...あそこで踊る男女ペアが
少し羨ましい。
スマホで時間を確認した。そろそろ頃合いだろう。
大きく伸びをして帰ろうと炎に背を向けると、
1人の女子と目が合った。
「あ、あの...もう帰られるんですか...?」
「え?あぁ、はい。」
「そうですか...、あの!どうしても仲良くなりたくて...
良ければ私と踊ってくれませんか!!」
確か隣のクラスの...一度も話さなかった女子だ。
仲良くなる工程は随分と飛んでるが、
こんなに真剣にお願いをされて断る人はいないと思う。
「俺でよければ...」
「あ、ありがとうございます!」
心の奥底で小さく燃え上がる何かがあった。
キャンプファイヤーからもらい火でもしたんだろう。
語り部シルヴァ