巡り会えたら
瓦礫まみれの中砂埃が吹き荒れる。
肩で息をすることすら苦しい。
乾いた呼吸が口から漏れる。
呼吸の仕方を忘れそうなくらい体力の限界だ。
それは相手も同じで、お互い立っているのもやっとだろう。
「なぁ!俺たちはどこで間違ったんだろうなあ!」
唾を飲み込み少しでも声が張るように問いかけた。
「私たちは...間違ってなどないさ。
お互いの芯が元々違うだけ。目的が同じだけだった。」
部下は全滅。信念がぶつかり合った結果一面は赤い海。
こいつとなら...なんて少しは期待した俺が馬鹿だった。
向こうも同じだろうか...
それでも、折れればこの先に未来なんてない。
相手の上に立つか、死か...この世界はそれしかない。
目的が同じでなければ、きっといい友人になれたはずだ。
そう思うくらい相手とはウマが合ったのに...残念だ。
剣を再び強く握りしめ構える。
踏みしめた大地がえぐれるほど蹴って相手に斬り掛かる。
なぁ友よ。もしこんなふざけた世界が終わって
生まれ変わったらまたお前と巡り会えるだろうか...
そしたらバカやって酒を飲もうぜ。
そんなことを思いながらすれ違い様に切りつける。
こちらの鎧が砕ける音と、近くで膝が崩れ落ちる音がした。
語り部シルヴァ
奇跡をもう一度
手術は無事成功した。
ベッドで眠る息子を見つめながらうるさい心臓を
なだめるように手に当てる。
重い病気を患った息子の命は長くは持たないと
先生に言われた時は目の前が真っ暗になるほど絶望した。
けれど、時間と息子が諦めない気持ちを教えてくれた。
どうにかできないものか、私はあらゆる手を尽くして
息子の命が助かる方法を模索した。
優秀な医者への手紙、動画サイト、SNS...
自分で出来ることはとにかくした。
そしてついに、息子の病気を治せる医者が
名乗りあげてくれて、診断後すぐに手術へと移行してくれた。
手術ができる医者と出会えたのは奇跡だ。
手術が成功したのも奇跡だ。
あとは...息子が目を覚ましてくれれば
どれだけ喜ばしいことか。
ここまでもわがままなのは充分わかっている。
でももう一度...奇跡をもう一度だけください。
うるさい心臓の鼓動と心電図の音だけが病室に響き渡る...
語り部シルヴァ
たそがれ
今日最後のチャイムが鳴り響く。
図書室は静かで、チャイムの余韻がずっと残る。
ここの学校は夕方にチャイムが鳴る。
春は18時、秋は17時を最後にチャイムが鳴り、
チャイムが鳴った後で校内を歩いていると、
基本的には先生に帰らされる。
それまで僕は図書室でのんびり本を読む。
どーせ先生が迎えに来るならそれまでの時間を
有意義に使わせてもらおう。
窓の外からは沢山の男女がきゃいきゃいとはしゃぎながら
校門へと歩いていく姿が目に入る。
みんななんでそうはしゃげるんだろうか。
ずっと本を読んでいた方が有意義だろう。
いつの間にか本を読むのをやめて頬杖をつきながら眺めていた。輝く夕焼け空が彼らを照らしていたのと、
この感情に気付いて深いため息が零れた。
語り部シルヴァ
きっと明日も
少し早くなった夕暮れは帰る時に
素敵な夕焼け空を見せてくれる。
部活も試合を終えて卒業の形で退部。
おかげで学校が終わり次第彼女と帰る時間が
毎日できるようになった。
今までは部活があったから一緒に帰れるなんて
夢にも思ってなかった。
ただ僕は電車通学。
だから彼女を家に送ってそこから帰る。
彼女の日常の景色に僕がいるのはなんだか嬉しい。
彼女が普段から見る景色、踏みしめてきた道。
帰り道を理解する度に彼女をまたひとつ理解した気分になる。
そんなことを思いながら彼女と話をしていると
あっという間に着いてしまった。
寂しいが...また明日だ。
「今日もありがとう。また明日だね。」
「だね。また明日。」
彼女が家に入るのを確認して帰路を目指す。
さっきまで歩いた道を引き返すこの寂しさは秋のせい。
きっと明日も、君のおかげで素敵な1日になるよね。
そう考えると帰り道が少し明るくなった気がした。
語り部シルヴァ
静寂に包まれた部屋
「これで全部です。ではお願いします。」
頭を下げながら挨拶をする。
「かしこまりました!では現地で!」
力強い元気な声は大きいトラックに乗って走り出した。
さて...と部屋を振り返る。
ベッドや冷蔵庫、テレビ...自分の持ち物が
全て無くなったこの部屋はこんなにも広かったものか...
ここに来た時は広く自分好みの部屋に変えようと
意気込んでいた事を思い出した。
結局掃除が面倒で模様替えをする体力が無く
あんまり出来なかった。
次の部屋では...と思ったが
また同じことになってしまいそうだ。
ここで数年間過ごした思い出を思い出しながら
部屋の中をゆっくりと歩き、眺める。
思い出の中は賑やかだが、何も無い今はすごく静かだ。
...全部...思い出になってしまったなあ...。
少しセンチメンタルに浸りたいところだが、
そろそろ出発しないと荷物を待たせることになってしまう。
寂しいが...さようならだ。玄関でもう一度部屋の方を向き、
「ありがとうございました。」と
深く一礼しながら部屋に伝える。
お世話になりました。
それじゃあ、行ってきます。
語り部シルヴァ