語り部シルヴァ

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踊りませんか?

木の角材を何重にも重ねた大きな炎の柱が優しく燃えている。
優しい炎の周りを何十組もの男女ペアが楽しそうに踊る。
丁寧に踊る組、写真で自分をたてる組、
ふざけてウケを狙う組...
色んな組が炎の明かりに照らされる。

文化祭の打ち上げ、というか本日のメインディッシュと
言えるくらいの恒例行事。
大きなキャンプファイアを真ん中に男女ペアが踊る光景は
2年目だけど圧巻だ。
きっとこの日のためにあそこで踊っている男女は
自分磨きに相手の好感度をあげたのだろう。

俺はと言うと...1人でその景色を少し離れた所で見ている。
大きい炎のせいか離れてても温かさが伝わる。

1人の理由は特にない。
仲のいい女子どころか男子の友人も壊滅的に少ない。
その友人も友人の友人のもとへ行ってしまった。

こうやって1人になってるのは
自分が努力しなかった結果だろう。
別に哀しさとかはないけど...あそこで踊る男女ペアが
少し羨ましい。
スマホで時間を確認した。そろそろ頃合いだろう。

大きく伸びをして帰ろうと炎に背を向けると、
1人の女子と目が合った。

「あ、あの...もう帰られるんですか...?」
「え?あぁ、はい。」
「そうですか...、あの!どうしても仲良くなりたくて...
良ければ私と踊ってくれませんか!!」

確か隣のクラスの...一度も話さなかった女子だ。
仲良くなる工程は随分と飛んでるが、
こんなに真剣にお願いをされて断る人はいないと思う。

「俺でよければ...」
「あ、ありがとうございます!」

心の奥底で小さく燃え上がる何かがあった。
キャンプファイヤーからもらい火でもしたんだろう。

語り部シルヴァ

10/4/2024, 4:15:38 PM