→君は青と表現し、私は緑だと言うことが度々ある。
ところで、私と君の見ている景色が一緒だという確証は、どこにあるんだろうね?
試しに答えてよ。
目の前の信号、何色?
テーマ; 君と見た景色
→意固地・解凍
負けるもんかと独り相撲
固く結んだ拳を振り回して
周りなんか見る余裕もなく踏ん張って
今日までやって来た
「そんなに必死にならなくてもいいんだよ」
骨が白く浮き立つ僕の指を一つずつ
あなたは丁寧に優しく解いた
久しぶりに五指の離れた掌に風
握るもののなくなった僕の手に
あなたの手が重なる
あなたはのんびり歩き出す
僕の手を引いて
「ちょっとゆっくり散歩でもしようよ」
あなたの体温が雪解けのように
僕の意固地を解かしてゆく
僕の肩から片意地が落ちた
突き出しすぎていた顎が下がった
勝ち負けではなく二人で
繋ぎ合わせた手の温かさ
目に映るものをしっかり見て
今日から歩き出そう
テーマ; 手を繋いで
→短編・短編迷子
「どこ?」
坂道の途中で、幼い声が私の足を止めた。質問の意味を求めて声の主を見遣る。
おかっぱ頭の少女が小首を傾げて私を見ている。知らない顔だ。私たちの視線が交わると同時に、彼女は再び「どこ?」と同じ質問を繰り返した。
「何か探し物かな?」
取り合う義理もないが、無視するのも気が引ける。不完全な問いに対して私はなるたけ優しく問い返した。
少女は頭を振った。おかっぱの髪が揺れる。
「ここ、どこ?」
幼年者独特の澄んだ瞳が、縋るように私を凝視する。そうか、迷子か。
さて、どうしたものか。まずは、ここがどこかを教えて、彼女がとこから来たのか、誰と来たのかを訊いてみよう。
「うん、ここは、ここ……?」
ここは坂道? いや、階段坂? ドクンと心臓が大きく震えた。あれ? 私はどこにいるんだ?
「坂道の途中」しか解からない。都会か田舎か住宅街か、文字の情報はほとんどない。え? 文字?? 文字の情報?
「ここはどこ? わたしはだれ? あなたはだれ?」
おかっぱの少女。しかしそれしか解らない。身体については書かれていない。つまり生首。
圧倒的に描写の足りていない小説で、辺りは穴だらけ。
坂道と生首だけの奇々怪々の世界で、私は自分を確認しようとしたが、何もなかった。私に関する記述は、何もなかった。
テーマ; どこ?
→短編・本気と書いてマジと読む(キリッ)。もしくは昼飯時のカオス。
弁当に目線を落とす男。主菜、副菜、薄紅色の飯のバランスが素晴らしい弁当だ。
「俺、ゆかりのこと、本気で好きかも」
片や、菓子パンに食らいつく男。友人の弁当をチラッと横見する。
「マジか!」
「マジで。どうやったら両思いになれるかな?」
「……シソふりかけと付き合うって? お前、それ、マジでヤバいだろ……」
その忠告を聞き流したのか聞き入ったのか、男はシソ風味飯を無言で食べ始めた。もう一人も無言でパンを食べる。
ゆかりの上品な香りが微かに漂い二人を包んだ。
テーマ; 大好き
→ゴミ。
「捨てちまえよ、そんなもん」
自分の中の呆れた声。
夢を諦める線引きを見誤って、途方もない遠くまで来ちまって、いまさら引き返せやしない。
昔は新鮮で輝いていた。そのうち生ゴミになって腐って、今じゃスッカラカンの粗大ゴミだ。
もはや腐敗はしないが、場所は取るし重量もある。
心にも許容範囲はある。ゴミが散らかったままでは塩梅が良くない。
だから心の声は囁くんだ。
「捨てちまえよ、そんなもん」
そうだな、そうして心の断捨離ができりゃ、夢を思い出に酒の肴にできるかもな。熟成年度だけはハンパねぇから、スルメ並に噛みしめられるんじゃないかな。
そんな新しい第一歩を踏み出してぇなぁ。
でも、できないんだよ。
ゴミになった夢でも、日によっては眩しくってさ。手を伸ばそうとしちまうんだよ。
愚か者だよなぁ。
笑えねぇや。
テーマ; 叶わぬ夢