→短編・あきふう、あきかぜ。
「はい! バックダンサー! 秋をイメージさせる踊り!」
演出家の指示に、数人のバックダンサーがそれぞれの解釈で踊り始める。
落ち葉を踏み鳴らすような踊り、何かを食べるような素振りを盛り込んだ踊り、晴れ渡った高い空を伸びやかに表現する踊りなど、それぞれの表現力に演出家はウンウンと納得顔で頷いた。
「よし! そのイメージとテンションを維持して」
そこに演出助手が慌てた様子で現れた。何事かを演出家に耳打ちする。
見る間に神妙な表情に変わった演出家は、「アキカゼの日常って何だよ!」と劇作家からの指摘に不満を吐き捨てた。
「バックダンサー! さっきのところ、もう一回! 秋のイメージじゃなくて、もっと具体的に『秋の風』イメージなんだとさ!」
修正やむなし。「秋っぽい」と「秋の風」では舞台に与える印象は大きく違う。
ちなみに、脚本にはこう書かれていた。
『秋風の日常が具現化し、主人公を取り囲む。』
人に伝える文章って難しいね☆
テーマ; 秋風
→短編・貴方ならどうする?
歩いていたら、目の前に賞状が降ってきた。
「また会いま賞」
上手く言えてない感がハンパない。恐ろしく語感も字面も悪い。
達筆なところも、これまた妙に気に障る。
「類稀なる資質を貴方に見いだしました。よってここに表彰いたします。」
個人の感想で表彰状を作んな。しかも文面と再会を賞する意味も繋がらん。
そのまま通り過ぎようと思ったが、ふとある考えが浮かび、奇妙な賞状を道の端へと移動させた。
「すみませーん。それ、なぜ移動させようと思われましたか?」
数歩先でマイクを手にした男性とカメラに取り囲まれる。
「街角ドッキリの撮影中で、変な賞状にどう対処するかって企画なんです」
よくそんな企画が通ったなぁ、とは言えない。笑顔を顔を貼り付けて俺は言った。
「あ、そうなんですかぁ。移動させた理由は……――」
放送は1ヶ月後だと言う。俺の答えはその時にでも聞いてください。
また会いましょう。
テーマ; また会いましょう
→短編・良い子も悪い子も真似しないでね。
〜行列の二人・3〜
「本当にスリルに満ちてたよなぁ」と落ち着いた声が、感慨を滲ませて呟いた。
仕事帰り、夕食をファーストフードで済ませようと列に注文の列に並んでいた私は、よく響く声に誘われて声の主を探した。
……。
なんだろう? どういう巡り合わせなんだろう?
一度目はおばんざいビュッフェ、二度目は美術館。そして三度目の今日。
こんなに同じ行列に並ぶ確率ってある?
私の隣の列に並ぶのは、これで三度目の遭遇となる高校生二人組だった。声の説得力と内容が伴わない子と、冷静な子。
先の発言は内容が伴わない子。
もうこうなってくると二人に役を与えたくなる。もちろん……。
「いきなりどうしたよ」
「さっき家を出る前に賞味期限1週間切れのヨーグルトの大っきいパックを母親が見つけてさ」
手でそのサイズを表している。サイズ感からして400グラムのやつか。
あ~、と相槌とも共感ともとれる声が上がる。うん、わかる、難しいラインだよね。
「母親が食うって言うから、奪って全食いしてきた。スリリングな気持ちを今も抱えてる」
「やらかしたな」と、呆れたような声。
賞味期限云々関係なく、普通にヨーグルト400グラムの一気食いは色々と危険だよねぇ。
「だってさぁ、腹痛くなるんなら親よりも自分のほうがマシかなぁって」
……。
「……」
い、いい子じゃないか!!
「お前のそういう所、普通に感心するわ」
そして妙に素直な感想! たまらんな、この二人!
「うっわ、褒められた! 俺、ここの支払いタカられる!?」
「―んで、自分で墓穴掘るよな。奢ってくれんの?」
「ムリっす! さぁせん!」
うん、命名、ボケとツッコミ、コンビ名、ザ・行列。
テーマ; スリル
〜行列の二人〜
・10/26 一人飯(テーマ; 友達)
・11/1 展覧会(テーマ; 理想郷)
→まずもって思うのだが……
飛べない翼、そりゃそうだ。
翼だけで飛べるなら、これほど楽なことはない。
血肉とやる気があってこそ、羽ばたける。
想像力だけで、物語は紡がれない。
意欲と継続力を輪転させて、
見える地平、見せる地平。
それで燃え尽きるなら、私はイカロスになりたいよ。
テーマ; 飛べない翼
→短編・酒の肴
ランチタイム、弁当を食べていたら夫からSNS メッセージが来た。
「斎藤からススキもらった。
イイ感じのさかな。酒にぴったり。
今日は家飲みしよう。」
へぇ〜、そりゃいいや。今日は晴れてるし月も出そう。少し寒いけど、一杯くらいならベランダでススキと共に月見酒、なかなか風流じゃないか。
「了解。楽しみにしてる」
仕事帰りにちょっといい日本酒と惣菜を買おう。
ススキ、夫はどうやって持って帰るのかな? たぶん穂先を何かで包むとは思うけど……。穂先をゆらゆら揺らすススキを相棒に電車に揺られる彼を想像する。なんだか可愛い。結婚して半年。ことあるごとに彼が愛おしい。
あ~、早く帰りたいなぁ。
「ただいま〜」
「おかえり〜!」
私は花瓶を片手に夫を出迎えた。「あれ? ススキは?」
夫は大きな横広の紙袋を笑顔で差し出している。「ハイ、これ。マジで美味そう」
へ!? ス、ススキを食べる??
「あっ、え……、うん」
混乱した頭で袋を受け取る。中には大きなタッパーケース。
「魚の煮付け?」
「うん、ススキの煮付け。斎藤のヤツ、週末釣りに行ったら爆釣だってってさ。アイツ、本当にマメだよなぁ。釣った魚は全部自分で調理するんだもん。
――ところで、なんで花瓶持ってんの?」
彼はネクタイを解きながら、私と花瓶をキョトンと見つめた。メッセージを思い出す。確かに「いい感じのさかな」って書いてたな……。
夫の地元では、スズキをススキというらしい。知らんかったよ。てっきり植物だと思ったよ。
まだまだお互いに知らんことがいっぱいあるんだろうねぇ、とススキの煮付けを肴に杯を傾けて笑い合った。こうして夫婦になってくんだろうな。
来週末はススキの草原を観に行くことになった。
テーマ; ススキ