→短編・酒の肴
ランチタイム、弁当を食べていたら夫からSNS メッセージが来た。
「斎藤からススキもらった。
イイ感じのさかな。酒にぴったり。
今日は家飲みしよう。」
へぇ〜、そりゃいいや。今日は晴れてるし月も出そう。少し寒いけど、一杯くらいならベランダでススキと共に月見酒、なかなか風流じゃないか。
「了解。楽しみにしてる」
仕事帰りにちょっといい日本酒と惣菜を買おう。
ススキ、夫はどうやって持って帰るのかな? たぶん穂先を何かで包むとは思うけど……。穂先をゆらゆら揺らすススキを相棒に電車に揺られる彼を想像する。なんだか可愛い。結婚して半年。ことあるごとに彼が愛おしい。
あ~、早く帰りたいなぁ。
「ただいま〜」
「おかえり〜!」
私は花瓶を片手に夫を出迎えた。「あれ? ススキは?」
夫は大きな横広の紙袋を笑顔で差し出している。「ハイ、これ。マジで美味そう」
へ!? ス、ススキを食べる??
「あっ、え……、うん」
混乱した頭で袋を受け取る。中には大きなタッパーケース。
「魚の煮付け?」
「うん、ススキの煮付け。斎藤のヤツ、週末釣りに行ったら爆釣だってってさ。アイツ、本当にマメだよなぁ。釣った魚は全部自分で調理するんだもん。
――ところで、なんで花瓶持ってんの?」
彼はネクタイを解きながら、私と花瓶をキョトンと見つめた。メッセージを思い出す。確かに「いい感じのさかな」って書いてたな……。
夫の地元では、スズキをススキというらしい。知らんかったよ。てっきり植物だと思ったよ。
まだまだお互いに知らんことがいっぱいあるんだろうねぇ、とススキの煮付けを肴に杯を傾けて笑い合った。こうして夫婦になってくんだろうな。
来週末はススキの草原を観に行くことになった。
テーマ; ススキ
11/11/2024, 2:42:14 AM