一尾(いっぽ)in 仮住まい

Open App

→短編・あきふう、あきかぜ。

「はい! バックダンサー! 秋をイメージさせる踊り!」
 演出家の指示に、数人のバックダンサーがそれぞれの解釈で踊り始める。
 落ち葉を踏み鳴らすような踊り、何かを食べるような素振りを盛り込んだ踊り、晴れ渡った高い空を伸びやかに表現する踊りなど、それぞれの表現力に演出家はウンウンと納得顔で頷いた。
「よし! そのイメージとテンションを維持して」
 そこに演出助手が慌てた様子で現れた。何事かを演出家に耳打ちする。
 見る間に神妙な表情に変わった演出家は、「アキカゼの日常って何だよ!」と劇作家からの指摘に不満を吐き捨てた。
「バックダンサー! さっきのところ、もう一回! 秋のイメージじゃなくて、もっと具体的に『秋の風』イメージなんだとさ!」
 修正やむなし。「秋っぽい」と「秋の風」では舞台に与える印象は大きく違う。

 ちなみに、脚本にはこう書かれていた。
『秋風の日常が具現化し、主人公を取り囲む。』
 人に伝える文章って難しいね☆

テーマ; 秋風

11/14/2024, 3:54:32 PM