過ぎ去った日々
「あ、死んだ。」
俺は思っていたよりあっけなく死んだ。
だが、俺は悲しくなかった。やっと先に死んでしまった彼女に会えるからだ。
どうやら死んだ人はまず空の上にある門に向かうらしい。そこで天国と地獄どちらに向かうのか決めるのだとか。
俺はあくまで普通の生活をしてきたため、門番らしき人から天国行きと上に繋がる階段を指さしながら言われた。
(やっと彼女と会える!)
俺はもうすでにドキドキしており、顔は少し赤くなっていた。門番の説明も聞き流していたがある言葉だけがはっきりと聞こえた。
「生前の記憶は全て消えるのでご理解ください。」
くちびるがかすかに震え、ひゅっと息が漏れる。
「そ、それは、どういう、、」
「そのままの意味ですよ。」
淡白に門番は答える。
俺は諦めきれず訴えるように言う。
「それってどうしても消さなきゃ行けないんですか。俺は、俺は、、」
門番はすると申し訳なさそうな素振りを見せ、「規則ですので。」と答える。
「ではこちらの階段を登れば天国に行けますので、どうぞお進み下さい。」
その言葉と同時に俺の体は無意識に動き始め、階段を1段ずつ登り始めた。
生前の彼女との思い出が蘇る。彼女の輝く笑顔、素振り、全てが少しづつ霞み始める。
自然に涙が溢れ出す。涙とともに過ぎ去った日々の思い出は薄れていった。
「ここは、、?」
「はじめまして!ここは天国よ!」
「?」
「?、どうしたの??」
「いや、見覚えのあるような顔だなって思って、、」
そういうと彼女はキラキラと輝く笑顔を見せた。
絆
ある日、絆が人と人とを繋ぐリボンとして見えるようになった。黄色く細いリボンは今日も私と彼を繋いでいる。
彼とは家が近く、小さい時からずっと仲がよい。
だが私はこのリボンが目障りで仕方がない。
「ごめん。俺お前のこと親友としか思えない。」
ずっと片思いしていた彼に思いを伝えたのにあっさりと振られた。その時もリボンは光にあたりキラキラと輝いていた。
「こんなリボン、、、!」
私は思いっきりリボンを握り、ハサミを手に取る。
ハサミでリボンを挟む。
(もうこのリボンしか私と彼を繋ぐものは無い。)
頭の中にそんな言葉が浮かび、ハサミを置く。
「親友にならなければよかった。」
うめき声をあげて涙を流しながらそう呟いた。
大好きな君に
私は彼のことが大好き。ただ好きなだけ。
だから大好きな君のスマホをこまめにチェックして女の連絡先を消す。
大好きな君のものをコソコソと盗む。
そんなある日、ヤンデレ女が彼に付きまとってることがわかった。
彼は私だけのものなのに、、。そんな考えが四六時中頭から離れない。
だから、私は大好きな君に刃を振りかざした。
現実逃避
満月の夜、君の手を引いて人気の無い道を走り出す。道には2人の影だけが黒くはっきりと伸びている。
手のひらには1000円札を3枚だけ握り、走り続ける。
この先どうするかなんて考えてない。ただ君だけがいればきっと大丈夫。
そう心の中で繰り返しつぶやき、彼女の手をさらに強く握った。
1000年先も
「私はもう逝きます。」
彼は人間でいうと20代後半ぐらいの見た目でそう言った。だいたい、吸血鬼なんてみんな若い容姿のままこの世を去る。
「この、12000年間君のおかげで幸せだった。」
彼は私にそっとキスをした。少し牙が当たって痛かった。
(出会った頃とキスの下手さは変わらないな。)
そう思い、頬が緩む。
彼は私の頬を撫でながら言う。
「私が居なくなっても私を愛してくれるかい。」
「私だってあと1000年でもしたら貴方の元に行きますよ。まぁ、その間にあなたの事なんて忘れてしまうかもしれませんけど。」
彼はそう聞くと、吹き出すように笑いだした。
「出会った頃と君は変わらないな。大好きな君のままだ。」
彼はそういうと目をゆっくりと閉じ、眠りについた。
彼の冷たく固くなった手を握る。
「あと1000年は愛してあげますよ。」