B5版なっつ

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4/22/2024, 10:31:20 AM

『我慢』

月曜日の夜は鬱々とする。ああまだ4日も働かないといけないらしい。なんて酷い生活なんだろうか。
何をするでもなく動画サイトに時間を溶かす日々だ。

その日も別に特別なことは無かった。何となく流れてきた動画を、何となくで再生する。
今日は日本語字幕付きの海外の料理番組が流れてきた。昨日、料理系の動画を大量に流し見していた結果だろうか。

日本人の体型とは比べて大分ふくよかな料理人が、遠慮なく肉を焼いていく。カロリーが命らしい。

「深夜に見るもんじゃねぇかも」

スマホで時間を見ると0:23の文字が見える。残念ながらとっくのとうに夕飯は食べ終えているし、そう出なくても夜食には遅い時間。歯磨きだって終えてしまった。

料理が完成した後に、料理人の言葉が字幕で表示された。

『実は医者からはカロリーを控えろー、痩せろーなんて言われてるんですけどね。人生短いのに我慢なんてしてられないじゃないですか!』

豪快に笑いながら肉を切り、口に含み飲み込む。そこに追い打ちをかけるかのように炭酸ジュースで口内の油を全て胃へ流し込んでいた。きっとこの人の担当医が見ていたら卒倒するだろう。
ただ、本当にしょうもないが自分の頭の中で『我慢なんてしてられない』という言葉が残り続けた。料理番組の、それも医者の判断を総無視するような言葉から得た教訓なんてロクなもんじゃないだろうに。

「……た、食べてもいいよな。うん。これよりマシだもんな」

ロクでもないと理解はしつつ、どうしてか既に立ち上がり
左手にはカップ麺を持ってしまっていた。
免罪符になりもしない、新しくできた教訓で深夜の罪から目を逸らした。

(テーマ:たとえ間違いだったとしても)

4/21/2024, 11:43:43 AM

『ロマンのない天気』

傘の内側で聞く音は、普段よりよく聞こえるらしい。
雨に濡れないこの狭い範囲だけと考えるとなんてロマンチックなことだろうか!

ただ残念なのが、今日は豪雨で傘の意味が無いことだ。朝の天気予報では『ぱらぱらと〜』なんて可愛らしい表現で伝えられていたはずなのだが、お昼頃から雲行きが怪しくなって、夜の今になって土砂降りになってしまった。

靴下はぐしょぐしょだし、パンツの裾は雨に濡れて黒くなっている。
カッパを着ている人を恨めしく目で追ってしまうほどだ。

「ロマンチックになりたかったー!」

傘を畳んで雨で司会の悪い中を走る。
前髪から伝う雫にロマンチックは存在しなかった。

4/21/2024, 12:53:27 AM

『ラブストーリーに冷笑を』

夜の9時、テレビで流れるドラマ。別れようと告げる女に対して「お前以外には何もいらないんだ」なんて涙ながらに訴える男。きっとこの後は幸せなキスをしてハッピーエンドだ。

なんて酷いストーリーだ。フィクションにしても酷すぎる。

「せめて無欲であれよ、全くさ」

つい30分前まで私には彼氏がいた。素敵なドラマがあるから一緒に見ようだなんて、恋に浮かれていた私はとんだ馬鹿だ。
振られた理由はとても簡単。私自身に性欲が一切ないから。

キスシーンまで進んだドラマを見ながら、告白された時のことを思い出された。『きみ以外何もいらないから』なんて臭いセリフだったっけか。

「何もいらないなんてフィクションにさえならない嘘だよ」

フィクションの2人は幸せそうだった。

4/19/2024, 1:26:15 PM

『見ない選択』

もし未来が見えるのならどうする?
そんな問いに友人は「幸せな自分の姿が見たい。」そう答えた。

「あーでもさ、でもだよ?」

友人は言葉を続けた。

「もし未来に今までよりも幸せなことがなかった時、どうすればいいだろうね」

どう、だなんて。そんなのどうしようもないじゃないか。
過去にしがみついて生きる覚悟を決めるぐらいしかないと思うのだが。

「……万が一にでもこの先に幸せなことがなければ、きっと生きることを諦めちゃいそうだな、自分は」

友人は笑っていた。私は笑えなかった。
なぜならこの友人なら、本当に諦めてしまいそうだったから。そして私は、友人の生きる意味になれそうにもなかったからだ。

4/18/2024, 5:17:31 PM

『名前がなければ』

色のある世界とはどんなものだろうか。

私が産まれた時には、既に色は消え去った後だった。もっと正確に言えば、色の名前が存在しなかった。それどころか、つい最近まで“色”という言葉自体さえ、誰一人として知らなかった。
一体誰がこれを“色”と名付けたのか。

「空にはどんな名前の色が合うんだろう」

日が落ちると暗くなり、朝とは明らかに違う雰囲気になる。
毎日同じような感じだけれど、毎日違うような気もしている。
明るいか暗いか。他にも名前はあるはずなのに、名前がわからないが故に“色”の存在を認識できずにいることが悔しかった。

色がある私の知らない世界に、今日も夢見て空を眺める。

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