B5版なっつ

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4/17/2024, 3:24:51 PM

『欲深い彼女』

「来世は桜になれるかしら」
「えぇ?」
「だって毎年、こんなにも咲くのを待ち詫びられている花なんてないでしょ?それに、散ることを悲しむ人だってたくさんいる」

病室から見える桜の木は今年も綺麗で、彼女はこの窓から見える景色を気に入っているようだった。この季節になると窓を開けてもらい、1人ベッドの上で花見をすることを、ここ数年の楽しみにしていた。

「僕は君が明日も生きていてくれることを望んでいるし、それに……死んでしまうことを悲しいって思うよ。それじゃあ足りないの?」

桜の花よりも不健康に白く、やせ細ってしまった彼女の手を握る。

「ごめんなさいね、わたしは欲張りだから」

だろうな、そう思った。

外ではびゅうっと強い風が通り抜けた。窓ガラスがガタガタと揺れ、風で飛ばされてきた桜の花びらが病室に舞い込んできた。その花びらを彼女は楽しそうに目で追っていた。
そうかこれが『桜に攫われる』ということなんだ、なんとなくそう思えた。

多くの人に愛されたかった彼女は、きっと明日死ぬのだろう。舞い散る桜の花が、そう告げていた。