望月

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5/6/2024, 11:05:47 AM

《明日世界が終わるなら》

「……ねぇ、明日世界が終わるならさ、何したい?」
「俺? あー……ゲーム、かな」
「マジで? 世界終わって自分も死んじゃうのに、やりたいことゲームなの」
「だって急に言われてもよぉ……そういうお前はあんの、やりてぇこと」
「僕はね、あるよ」
「あんのかよ」
「君と一緒に起きて、僕の作った朝ご飯食べて、買ったばっかの新作のゲームして、お前が作った不味いお昼食べて、服買いに行って、それで暑いねってアイス食べて、二人でオムライスを作り合って晩ご飯食べたら、お風呂入って、昔からずっと好きなゲームして、遊び疲れて一緒にソファで寝るの」
「なっげぇな……つか、全部俺とかよ。あと別に俺の作った料理不味いとは限らないだろ」
「それで僕らの寝てる間に、世界は終わっちゃうの」
「おい、無視すんな」
「してないよ~! でもさ、僕のしたいこと、素敵だと思わない?」
「あ? あぁー……まぁ、な。そこそこいんじゃね? 細けーけど」
「でしょ! だから今からしちゃおう!」
「はぁ? まだ夕方だぞ」
「じゃあ明日しよ、ね」
「…………新作のゲーム、そっちが用意しろよ」
「大丈夫! ちゃんとネットで買っとくから、今日はスーパーよってから僕ん家行こう」
「ハイハイ、財布はよろしく~」
「それ他人に聞かれたら誤解されるって。お前そういうとこ直した方がいいよ?」
「るせ、どうせ誰もいねえからいいだろ」
「それはそうだけどさぁ」
「んで! 行くんだろ、スーパー」
「行く! 怒んないでよ〜」
「怒ってねぇし! ……晩飯、なにすんの」
「君の好きなのにしよっか」
「……じゃあ、寿司!」
「それ僕が握んの!?」
「冗談に決まってん、」
「いいよ、任せな。その為に練習してきたから」
「いやいけんのかよ!」
「え? そっちが言ったんでしょ」
「言ったよ、言ったけど……」
「ふふ、君はお寿司が食べたいんでしょ? いいよ、僕に任せなさい」
「おぉ……!」
「その代わり酢飯作りは手伝ってね」
「もちろん! それくらいはできるし」
「んじゃ、早くスーパー行って帰ろっか」
「おう!」
「……このスーパーも、人造人間が働いてるね」
「そりゃそうだろ、今どきどこの店もそうだよ。なにお前引きこもってたの?」
「コンビニで全部済んでたの! ……買いたいものは買ったし、帰ろ」
「ん、持つわ。……にしてもマジで外歩いてて人間に会わなくなったよな」
「数が減っちゃったもんね。随分前はラジオで何万人が残ってるとか流してたけど……今はそれもなくなったし」
「人造人間にはそんな情報は要らねぇからとか? 最近は俺ら以外見てねぇ気もするしな」
「そうだね。今世界がなくなっても、僕ら以外わからないのかな」
「……かもな」
「……そっか」
「つか! そんなことより、さっさと寿司食いてぇから、家まで競争しねぇ?」
「荷物持ってるデバフありでいいの?」
「ばーか、俺が余裕で勝つわ」
「そこまで言うならいいよ、その勝負乗った!」
「…………疲れた」
「はい僕の勝ち~おつ~」
「うぜぇ」
「ほら早く手ぇ洗ってきな? 酢飯作ってよ」
「俺の寿司の為だもんな……やるか」
「僕のでもあるからね?」
「……酢飯の酢ってどんくらいなの?」
「僕に聞く? ……それくらいでいいんじゃない、わかんないけど」
「ま、どうせ食うの俺らだし、いっか」
「そうそう。……さて、握りますか」
「…………上手くね?」
「僕の才能が開花しちゃったか、流石に」
「そして美味い」
「お前の才能も開花してそうだね、流石に」
「いやマジでうめぇんだって、食ってみ?」
「……これ作った人天才です。シェフを呼んで、誰かー!」
「お前だわアホ。でもマジ天才」
「寿司とか初めて握ったけど楽しいね」
「初めてなのかよ!? じゃあガチでヤバい」
「いいじゃん、成功したし」
「……あー、食った食った。寝るか!」
「それ太るて」
「でも正直眠くね?」
「流石にか……僕も寝る」
「んじゃあ、明日はお前のしたいことしよーぜ」
「じゃあ明日は一緒に起きるとこからだから、僕と一緒に六時に起きてね?」
「……善処しマース」
「朝ご飯完成しても起きてこなかったら、起こしてやるよ」
「頼むわ」
「それじゃ、おやすみ」
「ん、おやすみ」
「……もし明日世界か終わるなら、こうやって普通の生活して、それで寝てる間に終わってほしいなぁ」
「——もし明日世界が終わるなら、こうやって二人で笑って、寝てる間に終わっちまえばいいのに」

5/3/2024, 10:05:57 AM

《優しくしないで》

 みんなが僕を可哀想だと口々に言う。
 僕は、可哀想なんかじゃないのに。
 僕が僕を可哀想にしている、だなんて言い掛かりもやめてくれ。
 僕は嫌なんだ、そうやって言われることも。
 だからって理由で優しくしてくれる、誰も彼も。
 何が可哀想なの?
 僕の目の前で両親が殺されたこと?
 僕の目の前にいたのに、両親を助けられなかったこと?
 僕の目の前で死んだ両親のこと?
 何が、誰が、可哀想なの?
 それが僕は分からなくなる。
 そうして与えられる優しさは、腫れ物に触るみたいで、何処か他人事で素っ気ない。
 それを、ずっと与えられなきゃいけないのか。
 誰かの自己満足を満たす為なのか。
 僕の渇きを癒す為だとか、そんな御託は要らない。
 だってそうだろう。
「君も、僕が『可哀想だから』優しくしてくれてるんだろ」
 だから。
 もう、要らない。
「優しくしないでよ! 僕は両親を見殺しにした——ただ勇気の出なかっただけの、子供なのに」
 せめて君くらいは、僕に同情しないで、優しくしないでいてほしかった。
「何言ってるんだ? そんなことはどうだっていい。ただ俺が、お前を好きだから優しくするんだよ」
 そう言って君は呆れて。
「……ああそうか」
 僕は僕自身で、優しさを同情の証だと決め付けていたんだ。
 そうして、自分自身で『可哀想な子供』に貶めていのか。
「……こんな僕なんかに、優しくしないでね」
 君の優しさに、気付けなかった僕なんかに。

5/1/2024, 9:57:02 AM

《楽園》

 やりたいことが見つからない。
 あれもこれも楽しいけれど、本当にずっと追いたいのかと聞かれれば違う。
 絵も。歌も。劇も。創作も。
 楽しいだけで、今後夢に変わるものではない。
 そんな私は、そんな私には何が最高と思えるのだろう。
 どこへも行けない思いを持て余して、どこにも行けないまま。
 人としての欲求を枯らして生きる意味は。
 その人生の先に、楽園は拡がっているのか。
 わからない。
 わからないが、信じていればたどり着けるのではないだろうか。
 楽園とはそういうものでないのか。
 誰か、教えてくれ。

 そう、僕は、言葉を波に放った。

4/30/2024, 10:00:22 AM

《善悪》《生きる意味》《刹那》

 それを定めるのは、いつの時代も人だ。
 神が定めたからでも無く、法が定めたからでも無い。
「殺人は善いことだ」
 そう神が言ったとて、それをそのまま受け入れる人もいれば、否定する人もいるだろう。
 それはそうだろう。
 命を奪われるのは、人々であっても神々ではない。当事者になることすらない神がそう言っても、人はその決断を嗤う。
 お前は何も知らないな、殺される人の気持ちがわからないからそう言えるのだ、と。
「お前は間違っている、殺人は罪であり悪しきことだ」
 そう人は神を否定して、結局のところ善悪を自ら定めるに至るのだ。
 法で殺人を善としたとて、同じことが起こるだろう。
 法を定義した者は実際にそんな環境に至ったことがないからそう言えるのだ、と人々はそう考える筈だ。そうなれば矢張り、人によって殺人を悪とされるのではないだろうか。
 生きる意味もまた、それと似たことだ。
 誰かがその生を求めるが故に、生きる意味は生まれる。
 その生を認めるが故に、生きることができる。
「お前なんていなくなってしまえ」
 その言葉一つで死を望んでしまう人もいるだろうし、そんな言葉なぞ知ったことかと無視する人もいる。
 つまりはそういう事なのだ。
 たったその時に世界に発された言葉が、誰かの生の在り方を変えてしまうこともある。その一方で、たったその時の言葉なだけだとして生の在り方の変わらないこともある。
 一刹那の気の有り様で人は変わることも選べるし、変わらないことも選べるのだ。
 善悪というのもそれと似ているのではないだろうか。
 そんなことを、夜眠る前に思うことがある。

4/25/2024, 9:37:35 AM

《ルール》

 悪魔には破ってはいけない禁忌がある。
 対価のない願いの成就や、契約者のいない時に『野良悪魔』と呼ばれる者達の実力の行使など、複数存在する。
 そんな中で生きる悪魔とは、果たして自由なものか。
 神話にあるように、神々までもを誑かした存在なのだろうか。
 神父は時折、聖典を開いてそう思うのだ。
 聖都、シュヴァルデンの中央にある聖教会は聖都のどこからでも望む事ができる大きな教会だ。
 また、聖都は聖教会の本山とも言える場所だ、そこで働いている誰よりも力のある神父と言えよう。
 神父——イーオンはただ、疑問を深めるばかりである。
「……悪魔とは、神々を堕落させし唯一無二の天界の汚点である? 聖典は嘘ばかりですね」
 そうは思わないか、とイーオンが振り返ると、そこには黒に染った男が一人。
「……悪魔よりも、それが似合うのは人であろうが」
 聖教会の象徴たる十字架に、杭で打たれた四肢から血を流し続ける男はそう言った。
「おやおや、久しぶりに話したかと思えば面白いことを仰いますね。貴方がそれを言うんですか」
「フン、そっくりそのままお返ししよう」
 人好きのする笑みを浮かべたイーオンは、男の前に立つ。
 おもむろに手を伸ばし、杭を捻った。
「——ッ、く……っ、ぁ……!!」
 血が酷く滴り、男は歯を食いしばって声を殺した。それでも、抑え切ることなど到底できなかった苦痛の声が漏れる。
「でもね、私思うんですよ。例えば悪魔とは、天界の汚点ではなく……契約のある限り死なない存在だと」
「……ふ、ふはははは! そんな訳が無いだろう! 悪魔とは永く命があるだけの種よ」
「そうでしょうか? ……いえ、貴方の言う通りかもしれませんね」
 不敵——男にとってはそう見えた——に笑って、イーオンは言う。
「けれど、こうして十字架に杭で打たれ、血を流しながらも貴方は五千もの夜を過ごしている。それだけで十分だとは思いませんか?」
「……何が言いたい、神父如きが」
「悪魔とは、かくも愚かな者ということですよ。そして狡猾で長寿な種だと」
 イーオンはただ、嗤う。
「気付かないとは中々、貴方も堕ちたものだ。いや、悪魔には昇ったという方が正しいのか」
「——まさか、」
「抵触してはならない禁忌の一つ、己より高位な悪魔の領域を犯してはならない」
 男の目の前で、神父としての仮面をゆっくりと外す。
 その瞳は、人に有るまじき金色の瞳だ。
「お、お許しくだッ——」
「聞かなければ、気付かずに生きていられたものを」
 禁忌に抵触したものを罰するのは、高位の悪魔の仕事であり——悪魔を滅するのは神父の仕事だ。
 こうしてまた、イーオンは——永遠の名を有する悪魔は教会で禁忌を諭すのだった。

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