望月

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《優しくしないで》

 みんなが僕を可哀想だと口々に言う。
 僕は、可哀想なんかじゃないのに。
 僕が僕を可哀想にしている、だなんて言い掛かりもやめてくれ。
 僕は嫌なんだ、そうやって言われることも。
 だからって理由で優しくしてくれる、誰も彼も。
 何が可哀想なの?
 僕の目の前で両親が殺されたこと?
 僕の目の前にいたのに、両親を助けられなかったこと?
 僕の目の前で死んだ両親のこと?
 何が、誰が、可哀想なの?
 それが僕は分からなくなる。
 そうして与えられる優しさは、腫れ物に触るみたいで、何処か他人事で素っ気ない。
 それを、ずっと与えられなきゃいけないのか。
 誰かの自己満足を満たす為なのか。
 僕の渇きを癒す為だとか、そんな御託は要らない。
 だってそうだろう。
「君も、僕が『可哀想だから』優しくしてくれてるんだろ」
 だから。
 もう、要らない。
「優しくしないでよ! 僕は両親を見殺しにした——ただ勇気の出なかっただけの、子供なのに」
 せめて君くらいは、僕に同情しないで、優しくしないでいてほしかった。
「何言ってるんだ? そんなことはどうだっていい。ただ俺が、お前を好きだから優しくするんだよ」
 そう言って君は呆れて。
「……ああそうか」
 僕は僕自身で、優しさを同情の証だと決め付けていたんだ。
 そうして、自分自身で『可哀想な子供』に貶めていのか。
「……こんな僕なんかに、優しくしないでね」
 君の優しさに、気付けなかった僕なんかに。

5/3/2024, 10:05:57 AM