《これからも、ずっと》
「物語を紡げる人で在りたい。
誰かに“自分自身”を伝えられる人で在りたい。
言葉と誰かを繋ぐ縁のような人で在りたい。
思いを言葉で言い表せるような、人で在りたい。」
それが『読者』にとっての僕で在りたい。
《星空の下で》
人工的な光の下では、その輝きは見えにくくなる。
だから、久しぶりにここに立つと。
「——っはぁ……ッ」
魅せられる。
息の詰まるほどに敷き詰められた星々は、決して美しいとは呼べないかも知れない。
小さく、呼吸のように点滅を繰り返す星々は、意思のある大きな流れを持って成されているかのようだ。
僅かに差のある、色とりどりの輝きが空を満たす。
星の光は何光年も前の輝きというが、どうしようもなく不安定なものではないだろうか。
時折輝き、それを失うもの。
されどまた、充ちて輝くもの。
その刹那の光に魅せられる。
この筆舌に尽くし難い光景は、まだ見慣れない。
「……あぁ、」
また、一つ、星が消えたように見える。
また、一つ、星が増えたように見える。
夜空を、星空に染め上げる輝き。
「……人の命というのは、短いモノだな」
そう言って、星空の下で臨界したナニカは去った。
それは少女のようで、老爺のようで、青年のようで、老婆のようで、少年であった。
いつぞやの、誰かであった。
《エイプリルフール》
あの人が会いに来てくれた。
忙しいと言っていたのに。
ずっと、ずっと待っていた人が。
来たくないと、来たくても来れないと言っていた人が来てくれた。
だから、今日に感謝を。
名を偽って、現れた、あの人に。
あの人との繋がりを保ち続けてくれた、彼に。
《安らかな瞳》
辺りに炎が揺らめく中、独り剣を抜く。
その剣に迷いはないが、終わりは見えていた。
殿を務めることに後悔はいないけれど。
「はぁあああああああああッ!!」
国に尽くし死ぬことは最高の、騎士の役目を果たした証だと思うけれど。
——人生の後悔なんて、幾らでも浮かぶ。
ああ、もっと上手くやればよかった。
最初からやらなければ良かった。
先にこうしていれば良かったのに。
もっと、もっと強ければ。
どうして諦めてしまったんだろう。
やりたかったのに。
素直に言えていれば変わった筈なのに。
もっと頑張りたかった。
どうして上手くいかないんだろう。
上手くいかないまま、満足なんてしないまま終わってしまうのか。
嫌だ、なんて言葉ではもう何も変わらない。
だけど。
「それがどうしたっ……!! こんなものか!」
返り血ごと切り捨て、手を止めない。
今此処には敵が何万といるだけで、それが救いとなることも味方となることもないのだから。
大好きな両親はきっとこれからも、幸せに過ごしてくれる筈だ。
近所に住んでいた猫も、きっと飼い主は見つかる。
仲のいい友達は、褒めてくれるだろうか。或いは怒るだろうか。
陛下はきっと、多分、褒めて下さる。
だから、後はどれだけ剣を振りたいかだ。
「まだ、足りないんだよッ!」
剣の道に終わりはあるか。
答えは、ない、だ。
ここで潰えるのならば。
矢だろうが。剣だろうが。槍だろうが。斧だろうが。
それら総てが煩わしいだけの、塵以下でしかなくなる。
盾だろうが。鎧だろうが。
そんな芥、意に介する必要もない。ただ、少し引っ掛かるだけだ。
そんなものに、絶たれる道ではない。
「……まだ…………終わりたくは、ない……ッ」
そう言いたかった。
けれど、血が流れて、肌が焦がされて、刺さって、斬られて、穿たれて、燃えて。
それでも立っているのがやっとで。
「……あぁ、そうか。もう、成すべき、役目は果たしたん……だな……」
炎の中、まだ向かってくる敵の影を認めて何とか剣を構える。
幾つもの仲間の亡骸を越えて現れたそれは、敵国で英雄と呼ばれている者だった。
指揮を執っていると聞いたそれを、この場まで引き摺り出せた。
それこそが目的であり、完遂の証。
「強者との立ち合いは……これで、最期ッ……!」
剣を交えて、刹那、地面が近くなった。
衝撃に耐え切れず相手の剣に斃れる前に、自分から倒れたのだ。
そんな、勿体ないことをしたくはない。
それでも、今の剣が最期だったのだろう、体は少しも動かない。
「…………言い遺すことはあるか」
英雄の慈悲か、矜恃か。
抵抗のできない敵を一方的に殺したくないのだろう。
「……お前にとって俺は、そんなにも弱者か」
生憎と甘えるつもりはない。
「……悪かった、言葉を間違えたな。……名を教えてはくれないか」
剣が振り下ろされる様を妙に長く感じながら、声を絞り出す。
「——アイシャ」
きっと、騎士らしくもない、誰かに覚えていて欲しいと願う男の声だったのだろうが。
それでも、英雄と呼ばれている者は。
「いい、名前だ」
そんな一言に声を残してくれた。
それが餞で、最期に聞いた音だった。
アイシャ——意味『生きている』。
《ずっと隣で》
確証なんてものを持ち合わせている訳では無い。
いつ破られるのか、そもそも、破るも何も無いのか。
それすらも知り得ない事だった。
けれど、ただ願っていた。
「隣に居させて欲しい。どんな関係だって構わないから。好きだけど、それが恋愛なのか友情なのかは僕にもわからないから」
まだ十歳で知って、話して、その時は恋に落ちた。
それから僕はまだ、君を嫌いになる理由を見つけられていない。
好きなところしか見えない盲目さは、恋や憧れ、推しに対する感情なのだろう。
それでも、一緒に居て落ち着くだとか、一番楽しい時間をくれるだとかは何処に分類されている感情なのだろうかはわからない。
「好きだから、付き合ってくれ。そう言われたら頷くけど」
恋人同士の接触がしたいかと聞かれると絶対にそんなことはない。
自分にコンプレックスがあるのも否定しないから。そういう人が、精神的恋愛思考を持つとも聞く。だからなのかも知れないし、また違うのかも知れないが。
とにかく、僕は僕を余り好きでないから。
君と手を握ることすら、まだできない。
肩のぶつかる距離で、息の掛かる距離で話すことは常にあるのにも関わらず。
「別れたい、って言われても頷くよ。その代わり、しっかり友達に戻ってもらうけど」
友達になったとて、僕らの距離感は全く変わらない。だから、お互い恋愛感情の『好き』なのかわからなくなるのだろう。
そして不安が募った僕が、愚かな真似をする。
そこまでがワンセットなのかも知れないし、そうでないのかも知れない。
だから。
いや、だけど。
「一緒に居たい気持ちは同じだよ」
それの正体なんて、まだわからないけれど。
ずっと、出会った時から変わらないまま大人へ近付いてきて。
強く、ふとした時でも、悩んでいる時でも思うのは。
「ずっと隣に居たい」
君の笑顔が、とか。
声が、とか。
匂いが、とか。
全部ひっくるめて、そうなんだと思う。
好き。大好き。
なんて言葉は、僕にとってどれだけの重みなのか。
それが全く分からなくなった。
君の隣に居続ければ、いつかはわかるって思ってるんだ。
「だからそれまで、居て欲しい……かな?」
何を今更、って君は笑ってくれるかな。