望月

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1/1/2024, 10:27:01 AM

《新年》

 あけまして、おめでとうございます!
 僕の書いた文章を読んで下さっている方、もっと読みたいと思って下さる方。
 本当にありがとうございます。
 これからもどうぞ、よろしくお願いします。
 
 現実的な話はこれくらいにしておきます……。

12/31/2023, 12:11:28 PM

《良いお年を》

 あ、あー
 これ、聞こえてますかね?
 おーい、聞こえます?
 まあいいか、聞こえてるってことにします。
 えっと、何言うんだっけ。
 忘れちゃったな。
 うん、そうですね。
 取り敢えず今年も終わりですね。
 お疲れ様でした!
 笑顔で終われたらいいです、多分、きっと。
 それでは!
 
 みなさま、良いお年を〜!!

12/28/2023, 3:57:38 PM

《冬休み》

 五日前に終業式を迎えたこの高校は今、冬休みに入っている。
 部活動の生徒達の活気のある声が校内に響くが、それでもいつもの元気さは感じられない。
 単純に人が少ないのだ。
 校内を移動するのも、教師が一番多いだろう。
『あーあ、つまんない。みんないないや』
 施錠された教室は窓もカーテンも閉まっていて、校庭の様子が伺えない。
 窓際の席に座っていたが、誰か遊んでくれる者がいないかと立ち上がる。
 教室を出て声のする方に足を向けると、音楽室に辿り着いた。吹奏楽部が部活中か。
 曲の練習をしているようで、聞いていて楽しい。
 指の動きを見るのも、飽きがなかった。
『すごいすごい! 流石ね!』
 拍手を送ってまた、練習の邪魔をしないようにと音楽室を後にする。
 次に向かったのは校庭だ。
 野球部の元気な声が聞こえる。
『なんだか、こっちまで元気になってくるなぁ』
 練習の邪魔にならないように、横から暫し眺める。
 飽きて来て漸く、今度は体育館に向かった。
 バスケ部の練習試合中だろうか、白熱した闘いが見える。
 シュートを決めた瞬間の歓声に驚くが、
『かっこいい! あんなに綺麗に入るのね!』
 プレイに魅入ってしまった。
 結局勝敗がつくまで観戦し、満足して体育館を後にする。
『最後はーここっ』
 一番お気に入りの場所は、屋上だ。
 天文学部が時折夜空観測の為に使用する時以外、滅多に解放されていない屋上。
 手を太陽に向ければ、光を受けてより一層透明度の増した肌に、青空の色が透けて見える。
 その美しさに目を奪われていると、扉の開く音がした。
「……眩しいな」
 寒そうに目を細めている老教師は、三年前からこの高校で非常勤教師として勤めている。
 フェンスの前で屈むと、小さなシオンの花束を置いた。
「この花、ずっと好きだっただろう?」
 合掌し瞑目。その後静かに切り出された言葉に、
『とっても綺麗だわ! 素敵!!』
 明るく声を返す。
 それに返事をすることなく、老教師は立ち上がる。
「それじゃあね、また明日来るよ。ゆっくりお眠り」
 寂しげな微笑を残し、老教師は扉の向こうに消えた。
 その背中に手を振っていたが、完全に足音が遠ざかると手を下ろす。

『……もう来ないでいいのに。ここ、お墓じゃないんだよ……でも、ありがとう』

 シオンの花言葉は「君を忘れない」だ。

12/28/2023, 4:35:01 AM

《手ぶくろ》

 決闘——当事者双方の合意の下、予め定めた規則に従い行われる闘争。
 そして、左手の手ぶくろを投げ付けたらそれは、決闘の申し込みだ。
「……なんの真似だ、これは」
 肩に当たり地面に落ちた手ぶくろを見て、レオンハルトは困惑の声を漏らした。
「あら、この行為の意味もご存知ないのかしら?」
「わかっているからこそ、聞いているんだ」
 飛んで来た方に視線を向けると、フィーネがいた。
 彼女はこの王国中の貴族達が通う王立学園で、入学時からトップの成績を維持している公爵令嬢だ。
 対するレオンハルトは、身分こそ王族と最高権力を誇るが、一年間二位の座に留まり続けていた。
「でしたらどうぞ、拾って下さる?」
「それでは貴女の決闘の申し込みを受けることになってしまうのだが」
「ええ、そうですわ。受けろと言っているの」
「何故そんなことを?」
 フィーネが学年一の才女であることくらい、誰でも知っている。わざわざ決闘で勝敗を示す必要はあるのだろうか。
 そう思い口にした言葉に、
「殿下が私に勝ちを譲っているのではないか、と噂されることはご存知でしょう?」
「いや、そんなことは……」
「ない、と殿下が言ったところで噂は消えません。それだけではなく、私が殿下に色目を使っているから殿下は私に甘い……という下衆な噂も広まっている様で」
 なるほど、道理で最近よく視線を集める訳だ。
 レオンハルトは王族だからと注目されることが多々あったし、フィーネも才色兼備の公爵令嬢とあって注目されることが多かった。
 それ故に、その二人の関係性を勘繰る者がいると。
「状況はわかった。つまり、決闘の結果を新たな噂の火種として、過去の噂を打ち消すのか」
「そういうことです。十分な話題でしょう?」
「十分過ぎるほどにな」
 噂を打ち消す為に、もっと食いつき易い餌を与えてやるのは有効だろう。
 今立っている噂がレオンハルトを貶めるだけならば問題ないが、フィーネまでも印象を悪くされている。
 己の努力の賜物に対し、不正を疑われ続けるのも業腹だろう。
 少し考えてレオンハルトは、足元に落ちた手ぶくろを拾った。
「……仕方ない。名誉の為だ、受ける他ないだろう」
「ふふ。決闘を受け入れて下さったこと、感謝致します、殿下」
 丁寧にお辞儀をして、フィーネは微笑んだ。
「ただし、条件がある」
「なんでしょう?」
 フィーネに向かって指を三本立てる。
「一つは、周囲に誰もいない場所で行うこと。他者の目線があるとやりにくいからだ。二つは、フィーネ嬢の勝利を宣言すること。そして三つは、決闘の内容を他者に漏らさないこと。四つは、規則は全てフィーネ嬢が決めることだ」
「……そのくらいなら構いませんわ」
 不思議そうに承諾したフィーネは思案して、
「でしたら規則は、制服着用の上、剣と魔法の双方を用いて戦うこと。全力を出すこと。そして、相手の首に剣を沿わせた場合のみ勝利とすること」
「待て、最後だけは呑めない。それでは多少の怪我を厭わないということだろう。学園内で認められているのは、服だけでも攻撃が通れば勝利とする決闘だけだ」
「ええ、ですからこれは学園内で行いませんわ」
「ならどこで……まさか、公爵家でするのか」
 公爵家ならば場所には困らないだろう。
「察しが良くて助かりますわ。そのまさか、です。……どの時間帯であろうと学園内で私達二人が一緒に行動していれば目立ちます。第三者の目無しに行うのは殆ど不可能でしょうから」
「そう、だな。……日時は?」
「明日の午後、お待ちしております」
 頭を下げたまま顔を上げないということは、話は終わったのだろう。
 「期待はするなよ」と言い捨てて、レオンハルトはその場を去った。


 そして迎えた翌日。
 レオンハルトは馬車を使わず用事があるとだけ伝えて、従者一人を伴って公爵家に向かった。
 当然、後方には護衛が付いているのだろうが気にしない。いつものことである。
「本日は当家にお越し下さり、誠にありがとうございます。ご不満かとは存じますが、従者の方には応接室でお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
 フィーネに迎えられるとは思っていなかったが、レオンハルトは表情を変えず、
「話は付けてある。……案ずるな。護衛の奴らと応接室で待て」
「……はっ」
 昨日レオンハルトが命令を下しておいて正解だったのか、従者らは特に不満を言うこともなく主に一礼し、公爵家のメイドに連れられて去った。
 そこで漸くレオンハルトは表情を崩し、口元に笑みを浮かべる。
「さて、準備はできているのか? フィーネ嬢」
「もちろんです。殿下をお待ちしておりましたから」
「……なあ、その敬語を辞めないか? 同学年だろう」
「ですが殿下は王族です。敬語を外すと、侮辱しているも同然では? 学園を出ているのですから、今ここには王子殿下と公爵令嬢という肩書きしかありませんし」
「なら俺が貴女に勝ったら、敬語を外してくれ」
「随分安い頼みですわね……着きましたわ」
 話しながら歩いている内に、広い庭に着いた。
 花壇に囲まれ美しく、しかし訓練場なのか木の的などが立てられている。丁度、玄関の裏に当たる位置だろうか。ここなら誰にも見られないだろう。
 互いに言葉を交わすこともなく庭の真ん中で向き合い、三歩下がって構える。
「攻撃するのはフィーネ嬢からでいい。好きに来い」
「ではお言葉に甘えて、失礼します」
 優雅に笑んだかと思うと、瞬き一つの間にその剣先が眼前に迫っていた。
 扱っている得物は両者共にレイピア。刺突による攻撃を主とする剣だ。
 それこそ、刺されば致命傷を負う武器だが、この程度で当たっていれば話にならない。
 左に跳んで躱し、牽制の意味で剣を横に振る。
 当然致命傷とは行かなくとも当たれば痛い為、フィーネは後退し体勢を整えた。
「距離を取るだなんて、随分消極的ですこと」
「いやいや、最初から目を狙ってきたフィーネ嬢には驚きだ。積極的過ぎないか……?」
「避けられるとわかってですわ。万が一当たりそうなら直前で止めるつもりでしたから、ご安心を」
 互いに会話をできる余裕があるのだから、まだ本気ではないのだろう。
 だが、悪戯に長引かせるのも良くない。
「悪いが規則に則り、全力で行かせてもらうぞ」
「当然でしょう? ——火よ、万物の祖たる力を示せ」
 詠唱に従い魔力が属性を得て現界し、弧を描く。
 地面を深く抉る威力を持ったそれがレオンハルトに放たれた。
「水よ、命の源として厳かに在れ」
 剣ではなく魔法戦かと、慌てることなく対抗属性で相殺すると大量の水蒸気が生まれた。
 火で一瞬にして蒸発したのだ、触れると火傷する温度だろう。当然避けるしかない。
「——嘘だろ、馬鹿なのか」
 次の瞬間、レオンハルトは絶句した。
 水蒸気の中を切り裂く様に、フィーネが突きを放って来たのだ。
 ある程度は剣風で捌けたのか顔などは無事だが、身体中小さな火傷ができている。それをものともしないで構えるフィーネに賞賛と、呆れを抱いた。
「はあぁぁっ!!」
 気合い一閃。
 気がついた時には首を剣先が掠め、浅く斬れる——
「お転婆が過ぎるだろ、この公爵令嬢」
 ことはなく、レオンハルトは後方に退避し、詠唱。
「風よ、巡りて調べを掻き回せ」
 風が水蒸気を吹き飛ばし、強く地面を蹴ったか宙にいるフィーネをも吹き飛ばす。
 本来ならここで相手の足でも斬っておくところだが、殺傷目的ではない為それはしない。
 だが、ここで畳み掛ける。
 風魔法で強制的に後方に飛ばされたフィーネを追う様に駆け、体勢を立て直している所に、更に詠唱。
「水よ風よ、其は命を知りて巡りを持つ。果ての始まりを知れ!」
 風によって舞う水滴で簡単な壁に近いものを造ることでフィーネの視界が狭められ、満足に狙いを定められない様にする。
 半円を描く様に造られたそれは、フィーネの視界を狭めるものであると同時に、レオンハルトの攻撃がどこから来るのか、予測を簡単にするものだった。
 フィーネは水の壁のない方に剣を向け、気配を感じ振り返る。
「——お返しだ。これで俺の勝ちだよな」
 そのフィーネの背後から、レオンハルトは首に剣を沿わせていた。少しでも横にずらせば、彼女の華奢な首から血が零れるだろう。
 観念したのか、フィーネは剣を下ろす。
 それを見てレオンハルトも剣を収めると、驚愕の表情をしたフィーネが問うた。
「……どうして、貴方がそこにいるのですか」
 たしかに気配はそこにあったのに、と。
「単純に、一瞬でフィーネ嬢の後ろに回っただけだ」
「……殿下は、随分と速いのですね」
「それはどうも。それで? 俺の勝ちでいいんだよな」
「文句なしで、私の負けです。いつも手を抜いていたのかしら」
 剣を収めレオンハルトを睨むが、それには答えずフィーネに唱えた。
「水よ、命の源なればまた、原初に戻りしこと叶わん」
 治癒魔法だ。先程の無茶な攻撃による火傷が癒え、フィーネは痛みと熱が引いたのを感じた。
「……感謝致します。ありがとうございます」
「俺がやらなくとも自分で治しただろうが、原因は俺にあるからな。せめて俺に治させてくれ」
 気にする必要はないのに、と呟くフィーネにレオンハルトは勝者として告げる。
「この決闘は俺の勝ちだが、先の条件通り『フィーネ嬢の勝利』を周知させてもらう」
「えっ? それは私が勝った場合の話で……」
「俺はそんなこと一言も言っていない。勝手に貴女がそう解釈しただけだろう?」
 言われてみれば、そうである。
 レオンハルトは最初からこの決闘をフィーネの勝利で終わらせるつもりだったのだ。
「……もし差し支えがなければ教えてくれるかしら。どうして殿下は私に勝たない様にしているの?」
「俺に兄がいるのは周知の事実だ。そして、俺の母親が王妃で兄上の母親は側妃であることも」
 聡い彼女のことだ、これで理解しただろう。
「……血筋だけでなく、実力も殿下に備わっているとなれば次期国王を決める際の火種となるからですね」
「そうだ。だから俺は、公爵令嬢に勝てない万年二位の王子でいる必要がある。わかってくれるな」
「……わかりました。この決闘の真相は、私の胸の内に秘めておきます」
「……全力で決闘を受けたのは嘘ではない」
「わかっています。人払いをしたのもそれが理由だったのでしょう? ですから、お気になさらず」
 優しいな、と思うレオンハルトはフィーネの手を取って歩き出す。
「ところで、敬語を外してくれる約束はどこに行ったのだ? フィーネ嬢」
「あっ……そうでし——そうだったわね」
「忘れないでくれよ? フィーネ嬢」
「今後、公共の場でなければ幾らでも敬語を外してあげるわよ。それと『フィーネ嬢』は止めて頂戴。呼び捨てでいいわ」
「わかった。なら俺も名前で呼んでくれ、フィーネ」
「どういう神経なのかしら? 王族を名前で呼ぶのと殿下が私の名前を呼ぶのとでは違うわよ!」
「フィーネ、駄目なのか?」
「……駄目とは言ってないでしょう。……わかったから少し待って。レ、レオンハルト……殿下」
「殿下は敬称だろ」
「レオンハルト……様」
「様も敬称だろ」
「うるさいわね! 人がせっかく……!」
「悪い悪い……ま、名前呼びで頑張ってくれー」
 揶揄う様に笑って、レオンハルトはフィーネの耳元で囁く。
「フィーネ、ありがとうな」
 王族として頭を下げることはないが、感謝を告げることはできるのだ。

 決闘から始まった彼らの秘密は、明かされることはなかった。

12/27/2023, 4:21:18 AM

 (注)長めです。展開が暗めです。

《変わらないものはない》

 ずっと、変わらないと思っていたのに。
 君だけは、ずっと俺の友達だと思っていたのに。
「お父さんを返してよ! この嘘吐き!!」
 涙を伴った悲痛な叫びが、応接室に響き渡った。
 どうして、そんなことを言うんだ。
 そんな言葉が出かかったけど、ああそうか、彼女は結果しか知らないのだろうと思い口を噤んだ。
 彼女の父親は商人で、売れ行きが伸びず生活に困っていた。そこで彼女と親しかった俺が、商品価値を上げる為家の名前を貸してやったのだ。
 由緒正しき名家である俺の家は、彼女たち平民と違って貴族だ。そんな家のお墨付きの商人とあらば、誰だって買い付けをそこでしたいと思うだろう。
 その狙いは正しかったと言えよう。
 あらゆるものが、相場の倍以上の価格で飛ぶように売れたのだ。
 だが、それを己の努力の結果だと勘違いした彼女の父親は驕ってしまった。
 そして、商人仲間に恨みを買い続けた末に借金を妻と娘に残し失踪したという。
「……たしかに、君のお父さんが失踪した理由は俺の行動にある。感情論で、軽々しく一介の商人に家の名前を貸した俺が悪かった。でもな、しっかりやっていれば問題なかったんだ」
「何言ってるのよ! お父さんは、ずっと地道に頑張って——」
「じゃあなんで、ギャンブルに手を出したんだよ。挙句、借金を作って逃げ出したのはなんでだ。おかげでお前たちは二度と商いなんてできなくなったぞ」
「っ! それ、は」
 身に余る権力を得て、おかしくなったのだろう。
 持たざる者が力を急激に得て呑まれるというのは、よくある話だ。
「っでも、あなたがお父さんにやったくせに!」
「俺が? 何を」
「とぼけないで! 一生を掛けたって払えない額の借金を背負わせたのはあなたでしょ!? 助けるって言ったのに、嘘吐いて!」
 冗談じゃない、俺が、借金を負わせただなんて。
 道理で憎そうに俺を睨むなと納得するが、捏造も甚だしい。私財がギャンブルに溶けたからと商人仲間から少しずつ借金をして行った結果だろうに。
 とはいえ、今更俺が真実を口にしたところで信じては貰えないだろう。
「……あなたのせいで、お母さんだってっ……!」
「待て、母親の死まで俺のせいにするのか」
「何その言い方! だってお父さんがいなくなったから、頑張って稼がないとって……それで体壊して、風邪を拗らせてっ……!! あなたのせいでしょ!!」
 経緯は知らないが、母親が倒れたことは知っていた。家の者に見張らせていたからだ。
 なるほどたしかに、間接的だが俺のせいかも知れない。だがここまで責められる謂れはない筈だ。
「俺が仕事を斡旋すると言ったのに、断ったのはそっちだろ。自業自得だ」
「当たり前でしょう!? 誰が、お父さんを追い詰めた奴から仕事を紹介するって言われて頷くのよ。危ない仕事に就かされるに決まってるわ!」
 ここまで俺は信用がないのか。
 何を言っても無駄だな、と判断した俺はソファから立ち上がる。
「もういい、出て行け」
「せめて謝って! お母さんのお墓の前で」
「俺は出て行けと言った筈だ、聞こえなかったのか」
 喚く彼女を回収しに、使用人を呼ぶ。
 扉の近くで待機していたのか、直ぐに現れた。
「いいか、よく聞け」
「うるさいっ! 嘘つきな奴の言葉なんて私は、」
「黙れ」
 幼馴染で、仲の良かった唯一の少女の首を掴む。
 腕は使用人に拘束されている為身動きが取れない彼女に、俺は笑んだ。
「お前の父親は愚かだったんだ。権力に呑まれ、金の亡者となりどこかで野垂れ死んでいるだろう」
 漸く恐怖を覚えたのか、表情を強ばらせる彼女。
「お前の母親もまた、愚かだったんだ。俺の誘いに乗っていれば今頃、お前と幸せに暮らせたものを。俺の慈悲を蔑ろにしたのだから、死も当然だ」
 怒りなど消え失せ、血の気が引いたその顔。
「そんな愚か者共の娘のお前に、俺が慈悲をくれてやろう」
 腰を抜かして立っていられなくなったか、俺を見上げるその瞳に映るは絶望。
「今すぐここを出れば、命の保証と僅かだが金をくれてやろう」
 一瞬映った希望は。
「だが、今後謝罪を求めたり俺と関わる様なことがあれば命はないと思え」
 震え頷くことで成立した。
 後のことは使用人に任せ、俺は手を離し応接室から立ち去る。
「国を出る資金と馬車の手配、追加で平均年収一年分の貨幣、借金返済、父親の捜索隊に増員をしろ」
 すれ違い様に使用人に命令を下し、俺は自室へ戻った。ベッドに倒れ込む。
「きっついなぁ……これは……」
 はは、と乾いた笑いが漏れるのも仕方がないだろう。まさか、そんなシナリオができあがっているとは思わなかったのだ。
 使用人から、幼馴染の少女が俺に会わせろと言って聞かない、と聞いた時は何事かと思ったが。
 真面目な彼女のことだ、聞いた話を鵜呑みにしてしまったのだろう。
「言い過ぎたかなぁ……言い過ぎたよなぁ……」
 流石に言葉がきつかったかもしれない。
 だが、ああでも言わないと俺が彼女を突き放せないのだ。国内にいると借金取りが来るだろうと見越して、早く国を出てもらう必要があるというのに。
「……でも、まあ。変わったのは俺かも知れないな」
 昔の関係が、幼馴染だったのに。
 今では、方や憎しみを募らせ。
 方や、それに甘んじているのだ。
 笑って過ごしてくれれば、それでいいのに。

 変わらないものはないのだと、理解させられた。

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