「るな」壊れた照明の弱い光に照らされる私に、小さな、でもはっきりした声が届いた。
私がそっと後ろを見ると、ナホが控えめに微笑んでいた。
「……ごめん、ほんと、ごめん…ね。あの……家、かえろうよ?るなのお父さん…すごい心配してて、」「もうやめよ」
思わず唸るように声を出してしまった。辺りの空気が冷えていくような気がする。
ナホが後ろで絶句している。もうやだ、なんで私は、また私のせいだ、ごめんなさい……。
冷たい頬を、冷や汗か涙か分からない雫が落ちていく。
「…あのさ」ぐっとかすれた声をしぼり出す。
もう、なにがなんでも話すしかない。最初からそういう宿命だったのに。
「私が才能がないからっ…上手くできないからって」うつむいた顔をまっすぐナホに向けて、顔がこわばってもそむかない。ナホの顔がぼんわりと歪んで見えた。
「ナホが無理しないでもいいんだよぉ…っ!」不格好だって分かってるけど、そのまま謎の達成感と共に私はナホに抱きついた。涙でぐちゃぐちゃの顔で。
ナホは私を控えめに抱きしめ返すと、頭を優しく撫でてくれた。
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら、変な声で訴え続ける。
「わっわた、私にお父さんしかいなっいとか、部活、うまくいかない、とかっ、そんなの、ナホにかんけ、ないのに…迷惑かけちゃ、って、ごめん、」「もういいよ」
私は上目遣いでそっとナホの方を見やった。何を言われるのか、もうわかってる気がした。
「上手くいかなくても、いいんだよ。…私が、救ってみせるから」
私は鳥。鳥かごの中に入っている小さな鳥。
閉じ込められているという名目で、実はそれに守られていることに気づかない愚かな鳥。
一見大きく見えるけど、中身は小さな小さな鳥。本当の姿はとてもとても弱い鳥。
ずっと鳥かごの中で、外の世界を知らない鳥。それを飼っている人のせいにする、卑怯な鳥。
そのくせ、自分は強いと思っている鳥。狭い世界の中でなにかと戦っている鳥。
外から見たらただの小さな鳥。でも、ネチネチした思いを抱えている鳥。
私は鳥。最高に最適な鳥。
昨日のテーマですみません^^;
暗闇を照らす明かりが、ぽつぽつと灯る夜の街。
制服の裾を握りしめ、浮かない顔の私はトボトボと街を歩いていた。
頭にこだまするのは、お母さんの小言、お父さんの怒鳴り声。
今はとにかく家族がいやで、大嫌いで、憎らしくて。
プチ家出をすることに決めた。
瞳にうかぶ涙を垂れ流させないように慌てて空を仰ぐと、綺麗な星空が目に入った。
なんだかすごく大きくて、ネットで見るのとは全然違う。大迫力だった。
あの小さな星より私は小さいんだ、と思うと、なにもなもどうでもよくなってくる。
嗚呼、このまま誰かが私の手を引いて、あの星空へ連れて行ってくれないかな。
でもポケットのスマホからピコンピコンと鳴る通知の音で、非現実から現実にもどされる。
お母さん、か………と震える手でスマホを開くと、『ほしのおうじさま』と表示されていた。
私は思わず顔をしかめる。ほしのおうじさま、なんて人はフレンドに登録していないはずだ。
きっと、迷惑メールかなんかだろう。
ブロックしようと通知をタップする。すると、急にスマホが眩しい光を放ってきた。
瞳が痛くなって慌てて目を瞑る。痛みがおさまり目を開くと
そこは星空の真ん中だった。
上も、下も、右も、左も。360°どこを見ても満天の星空。
私はぼーっとして、星空を見上げた。足はふわりと浮いていて、これが無重力か、とぼんやり思った。
壮大で、大きくて、ひたすら綺麗で眩しくて、地上から見るのとは違う。
星空に連れてこられたんだと思った。
しばらくして、一人の少年がやってきた。黄色かかったふんわりした髪、青い色の薄い瞳。
まさか人が来るとは思わなかったので呆然とする私に、少年はやわらかに微笑み、つぶやいた。
「ばいばい」
目を覚ますと、私の上にはほわほわとした明かりと、真っ暗な夜空しかなかった。
私はヨロヨロとした足取りで、明かりの灯る街を歩いていったのだった。
まだ私が小学生だったときの話だった。幼なじみの健太くんが、「冒険に行こう」と私を家から連れ出した。
お父さんもお母さんもいないし、このままどっかに行って迷子になったらどうしよう、死んじゃったらどうしようって怖くて、不安で、顔が真っ青になった。
手を引かれて連れてこられた先は、細長い路地の前。奥は暗くて何も見えない。
目を輝かせて奥に行こうとする健太くんを、私は必死に引き止めた。
「健太くん!怖いし、今日はやめとこうよ!」
「いいじゃん冒険なんだし」「よくないよ!迷子になったらどうするの!」
「迷子なんかならないよ、ほら行こう」「やだやだやだ!やめようよ!」
しつこく抵抗する私に嫌気が差したのか、健太くんは路地の奥に走っていってしまった。
あ……と思うももう遅い。健太くんは……それっきり姿を現さなくなった。
私は泣きじゃくりながら帰ってきて、健太くんのお母さんにそれを話した。すると、警察に行方不明届けを出すことになった。
それから十年。
私は18歳になった。今だに健太くんは帰ってこない。
あの道の先には何があったのだろうか………?
小さい頃から体が弱い私。とある日、謎の病気にかかって通い付けの病院に入院する事になった。これで何回目だろうか。
痛くて苦しい検査をいっぱいされた。しょぼんとしている私を撫でるママの手があったかくて、優しくて、泣きたくなる。
ようやくベットに横たわると、体から力が抜けていって、身動きを取るのが一苦労になる。
ベットの隣には大きな窓があった。丸っこくて、柔らかい印象の窓。私はこの窓が大好きだった。
可愛いし、外がよく見えるから。
そこから外を覗くと、公園のようか所があるのが見えた。男の子達が元気に遊んでいる。たまに私と目があっては、慌ててそらしたりしている。
いいな、と思った。私はこうしてぼーっと外を眺めることしかできないのに。
なんだか……こことそっちが違う世界みたい。この窓が境界線で、幸せな世界と不幸せな世界に分けられているんだ。
目頭に涙が浮かんで、慌てて目をこする。そしてまた、ぼーっと外を眺めていると、公園で遊んでいた同い年くらいの男の子とバチっと目があった。そのまま見つめ合う。男の子は不思議そうに首をかしげると、やがて、にかっと微笑んだ。私はなんだか恥ずかしくてたまらなくなって、ベットに潜り込んだ。
胸のあたりがドキドキとうるさくて、顔がかーっと熱くなって、寝れなかった。
小さい頃からやんちゃしてきた俺。今日も、行きつけの公園に遊びに行った。
爽やかな風が頬を撫でて、ボールをつくぽんぽんとした音が心地良い。
公園につくと、そうまとれんがこちらに大きく手を振っていた。心做しか二人共、なぜか顔が赤い気がする。
「こっちだ!ほら、来い!」「んだよ」「いいから早く!!」
二人に手を引かれた先には、大きな病院が立ちはだかっていた。そこの大きくて丸い窓の外に、長い黒髪をいじる女の子がいた。ぱっちりの大きな瞳、薄い唇。どこか儚げで、すごく綺麗だった。
ぼーっと見つめていると、パチっと目があった。女の子はどこか怯えた視線をこちらにやっている。
俺は少し考えた後、思いっきり微笑んだ。女の子が少し顔を赤くして、窓の外から消えた。
ベットに寝転んだんだろう。
あの女の子はこちらをどんな視点で見ているんだろう。きっと、俺とは違う世界に生まれて、綺麗で儚い世界を生きているんだろうな。
一瞬だったけど、きゅんと胸が切なくなった。ふっと体から力が抜けていき、自分の顔がとても熱くなっていることに気がついた。
いっしょだけど、違う世界に生きている