えだまめ

Open App


「るな」壊れた照明の弱い光に照らされる私に、小さな、でもはっきりした声が届いた。
私がそっと後ろを見ると、ナホが控えめに微笑んでいた。
「……ごめん、ほんと、ごめん…ね。あの……家、かえろうよ?るなのお父さん…すごい心配してて、」「もうやめよ」
思わず唸るように声を出してしまった。辺りの空気が冷えていくような気がする。
ナホが後ろで絶句している。もうやだ、なんで私は、また私のせいだ、ごめんなさい……。
冷たい頬を、冷や汗か涙か分からない雫が落ちていく。
「…あのさ」ぐっとかすれた声をしぼり出す。
もう、なにがなんでも話すしかない。最初からそういう宿命だったのに。
「私が才能がないからっ…上手くできないからって」うつむいた顔をまっすぐナホに向けて、顔がこわばってもそむかない。ナホの顔がぼんわりと歪んで見えた。
「ナホが無理しないでもいいんだよぉ…っ!」不格好だって分かってるけど、そのまま謎の達成感と共に私はナホに抱きついた。涙でぐちゃぐちゃの顔で。
ナホは私を控えめに抱きしめ返すと、頭を優しく撫でてくれた。
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら、変な声で訴え続ける。
「わっわた、私にお父さんしかいなっいとか、部活、うまくいかない、とかっ、そんなの、ナホにかんけ、ないのに…迷惑かけちゃ、って、ごめん、」「もういいよ」
私は上目遣いでそっとナホの方を見やった。何を言われるのか、もうわかってる気がした。
「上手くいかなくても、いいんだよ。…私が、救ってみせるから」

8/9/2024, 10:39:29 AM