もしも、青い空から赤い太陽になるのならば、
僕らが春から夏へと走っているということ。
そして、世界がたしかに広がっているということ。
もしも、赤い夕日が白い雲で覆われたのならば、
僕たちが夏から秋へ歩いているということ。
そして、青い空を恋焦がれているということ。
もしも、白い雲が黒い夜空になるのならば、
私たちが秋から冬へと動かされているということ。
そして、夜空の暗さを受け入れるということ。
空が変わるのなら、
僕らもきっと変わっているはずなんだ。
虹が見えるなら、
いつか雨が降っていたということだ。
春から冬へと向かう。
人が変わっても、時代が変わっても、
それだけは変わらない。
空とともに冬へと向かう。
広く遠い青い空から暗く静かな夜の空へと。
冬の先は、春になる。
冬の先は、夏になる。
冬の先は、秋になる。
冬の先は、無になる。
冬の先は誰も知らない。
けれど、向かうのだ。
けれど、進むのだ。
悲しくとも、怖くとも。
-冬へ。
「君はダメなやつだ。」
「才能なんてないのだから諦めろ。」
「君は期待をするな、どうせ無理なのだから。」
そんなことを言っていた彼の顔を私は忘れてしまった。
よく見ていたはずなのだが、こんな顔と言葉にすることが出来なかった。
強いていえば、嫌な顔だった。
彼と私は長い間共に居た。
いつからなのかは分からないが、少年時代には隣にいた。
彼は私が何かをする度にダメだとか、無理だとかそのようなことを呟き続けていた。
私は彼のことをとても嫌っていた。
特に、青年時代は。
彼も私を嫌っていたのだろう。
そうであって欲しい。
そういえば、もう1人ある仲間がいた。
「お前は面白いやつだ!」
「才能なんて磨けば出てくるはずさ!」
「期待しろ、成功は願うものにしか来ないはずだ!」
彼は、私のことをとにかく褒める。
そして、全てを認めてくれる。
けれど、私はどこか嘘くさく感じていた。
励ます言葉は私の欲しいものではななかった。
君はすごいと、君には才能があると、言い切って欲しかった。
そう願うのはただのわがままなんだろう。
彼が私を褒める度に私は責められているような幻覚を見ていた。
彼がどんな人だったのか、どんな顔をしていたのかも思い出せない。
しばらく、彼の顔を見ようとしていなかったのもあるのだろうが。
彼も少年時代にはもういたものだ。
青年時代、案外彼には助けられた。
私の心を埋めてくれるような感覚だった。
けれど、嫌いだった。
彼らは、誰なのだろう。
彼らは、どこに行ったのだろう。
写真にも、メールにも、手紙さえも残っていない。
どんな人かも、忘れていた。見て見ぬふりをした。
再び出会った。
彼らは近くにいた。
彼らは私のことをじっと見ていた。
何かを言いたそうで、何も言わないまま。
2人はゆっくりと歩いていく。
緩慢で、操り人形のようにフラフラと。
2人が重なって見える。
2人の輪郭がぼやけて来る。
光と光が合わさる時のように、境界線が消えていく。
彼らが1人になった時、彼らは私のことを同じようにじっと見ていた。
私のことを責めるように、許すように、逃げるように。
彼は、じっと立っている。
立っている。
彼だけは景色から外れていた。
彼はもう仲間ではなかった。
けれど、敵にはなれなかった。
ああ、もう共にはなれないのだな。
彼は静かに立っている。
私を見つめている。
誰も居ない、たった1人の鏡の中で彼の、いや、私の顔が見つめてる。
眩しくて目を細めた春の頃、
周りの草木はカラフルに咲き誇っていた。
灰色の私は静かに目を瞑った。
熱くて逃げ出した夏の頃、
周りの炎は紅く大きく燃え続けていた。
炭になった私は炎を吹き消した。
静かで居心地の悪くなった秋の頃、
周りの野原はただ静寂の中に揺られていた。
風の無い私は動くのを辞めた。
黒い大地に戻っていく冬の頃、
周りの土はもう動かなくなっていた。
私もやっと土になれた。
本当は、私も色が欲しかった。
本当は、私も輝きたかった。
眩しくて、一生懸命に咲き誇りたかった。
けれど、ダメだと悟って逃げた。
本当は、私も何かを燃やしたかった。
本当は、赤く大きくなりたかった。
眩しくて、私の全てを燃やし尽くしたかった。
けれど、どうせと言い訳をして辞めた。
本当は、私も悟っていた。
本当は、私も色々と考えていた。
けれど、間違えているだろうと一蹴した。
そして、動かない土を見つめて、
今になってからあの時、こうすればなんて言い出すんだ。
誰かのせいだ。環境が悪かったなんて思うんだ。
全部私のせいだったじゃないか。
輝きから目を瞑って、熱さから逃げて、考えるのをやめたのはお前じゃないか。
人生の四季は、いつだって輝いていた。
眩しいはずだった。
何時だって、輝けたはずだったのに。
こんなに黒くなってからこんなことを考えてしまう。
土になりながら呟いた。
ああ、次の1年はどうすれば、
眩しくて目を細めた春の頃、
周りの草木はカラフルに咲き誇っていた。
灰色の僕は、色をつかもうとした。
きっと、僕は眩しいだろう。
そうだろう?私。
僕は静かに目を瞑った。
瞼の裏は色に溢れていた。
とても、悲しくなるほど、嬉しくなるほど、
眩しかった。
虹の始まり。
それは生き物だった。
虹はいつも空に浮かんでいた。
龍のような細長い体は、いつも神々しく色鮮やかに輝いていた。
雨上がり、空を見上げれば常に虹がいた。
けれども、虹に触れたというものはいなかった。
虹はどこに住んでいるのか、どこにいるのかは誰も知らなかった。
虹がどこから来たのかは知らなかった。
虹は、昔は生き物だった。
虹はいつも空に浮かんでいた。
けれども、誰も虹に気がつくことはなかった。
虹が光の屈折だと知ったから。
虹の正体は、雨と光であることを解き明かしたから。
虹は、誰も気が付かれることなく帰っていく。
蛇のようなしっぽを揺らして、7色の色鉛筆に描かれながら。
虹は、今も生き物かもしれない。
けれど、虹の住処を探す人は誰1人いなかった。
虹の始まりは、誰も知らない。
その日も虹は空に浮かんでいた。
小さな子供が、手を振っていた。
少しだけしっぽを揺らしてあげた。
虹が、少しだけ揺らいだ。
私の記憶の中で一番古いものは、どこか暗いところにいた事である。声を出せども、反響し私自身の体を震わせるだけであった。心細さというものが私の心を支配していた。けれども、心の片隅に心地良さをも感じていたのを覚えている。
次の記憶は、痛くなるほどの光である。まるで、私を蒸発させてやると言っているかのように光はそこにいた。光から目を逸らし周りに向けた。無限に続いているかのように砂の原が広がっていた。私がここが砂漠であると知ったのはもう少しあとのことであった。
そこから、あまり変わらない景色が続いた。時たま、空を飛ぶ生き物やロープのような生き物が私の周りを取り囲むぐらいのことであった。そういう時は、そっと頭を撫でてやるのだ。
どれだけだったのかは、分からない。1つ、砂の色に似つかわない緑色のものを見つけた。それはあっという間に大きくなり数を増やしていった。私はそれを大事に守り続けることにした。鮮やかな緑は、私を夢中にさせた。私自身、砂の色にとうに見飽きていたのもあるだろう。
いくらか立って、私を緑のものが覆った。どうやらこれは植物と言うらしい。植物を目当てに様々な生き物がよってくるようになった。私もだいぶ人気になったものだ、と鼻を高くしていた。
しばらくして、今まで間に見たことの無い生き物現れた。白く薄い肌をしていてた。それらは、私を見つけると一目散によってきた。それらは何かを興奮したように話していた。どうやら、彼らにとって私はオアシスなるものらしく、命を繋ぎ止めるものらしい。
彼らは、よく来るようになった。うるさくて、変な匂いの箱に乗ってくることが増えた。彼らの肌は、よく変わるらしく赤色や黒色になっている時もあった。彼らが来たせいなのかは分からないが、生き物たちの姿を見ることが少なくなっていった。結構寂しかった。
彼らは、ある日棒のようなものを持ってきた。その棒を私の中に入れた。不快感と何か食べられているかのような感覚に襲われた。
その棒が入ってから、私の周りには植物が増えた。規則正しく並べられた植物は、見たことも無いものだらけであった。生き物たちを見なくなったのもこの頃だ。
それから幾許かの時間が流れた。私の体は、食べられ続け残りも少なくなっていた。私は、動かなくなった生き物達のことを死と呼ぶことを知っていた。私もそろそろ死になるのかと感じていた。
そして....。嗚呼、私の体が!
私の記憶の中で一番古いものは、空ふよふよと飛んでいたことだ。そして、地面に落とされ、気がつくとどこか暗いところにいた。声を出せども、反響し私自身の体を震わせるだけであった。