「君はダメなやつだ。」
「才能なんてないのだから諦めろ。」
「君は期待をするな、どうせ無理なのだから。」
そんなことを言っていた彼の顔を私は忘れてしまった。
よく見ていたはずなのだが、こんな顔と言葉にすることが出来なかった。
強いていえば、嫌な顔だった。
彼と私は長い間共に居た。
いつからなのかは分からないが、少年時代には隣にいた。
彼は私が何かをする度にダメだとか、無理だとかそのようなことを呟き続けていた。
私は彼のことをとても嫌っていた。
特に、青年時代は。
彼も私を嫌っていたのだろう。
そうであって欲しい。
そういえば、もう1人ある仲間がいた。
「お前は面白いやつだ!」
「才能なんて磨けば出てくるはずさ!」
「期待しろ、成功は願うものにしか来ないはずだ!」
彼は、私のことをとにかく褒める。
そして、全てを認めてくれる。
けれど、私はどこか嘘くさく感じていた。
励ます言葉は私の欲しいものではななかった。
君はすごいと、君には才能があると、言い切って欲しかった。
そう願うのはただのわがままなんだろう。
彼が私を褒める度に私は責められているような幻覚を見ていた。
彼がどんな人だったのか、どんな顔をしていたのかも思い出せない。
しばらく、彼の顔を見ようとしていなかったのもあるのだろうが。
彼も少年時代にはもういたものだ。
青年時代、案外彼には助けられた。
私の心を埋めてくれるような感覚だった。
けれど、嫌いだった。
彼らは、誰なのだろう。
彼らは、どこに行ったのだろう。
写真にも、メールにも、手紙さえも残っていない。
どんな人かも、忘れていた。見て見ぬふりをした。
再び出会った。
彼らは近くにいた。
彼らは私のことをじっと見ていた。
何かを言いたそうで、何も言わないまま。
2人はゆっくりと歩いていく。
緩慢で、操り人形のようにフラフラと。
2人が重なって見える。
2人の輪郭がぼやけて来る。
光と光が合わさる時のように、境界線が消えていく。
彼らが1人になった時、彼らは私のことを同じようにじっと見ていた。
私のことを責めるように、許すように、逃げるように。
彼は、じっと立っている。
立っている。
彼だけは景色から外れていた。
彼はもう仲間ではなかった。
けれど、敵にはなれなかった。
ああ、もう共にはなれないのだな。
彼は静かに立っている。
私を見つめている。
誰も居ない、たった1人の鏡の中で彼の、いや、私の顔が見つめてる。
9/8/2025, 1:41:17 PM