愛染

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11/16/2024, 3:30:23 PM

はなればなれ

ずっといっしょにいてね
なんて
柄にもなく吐いた言葉

色を持ったそれは
君を蝕んだ

黒く深く澄んだ瞳は
どこかゆがんでいた

その目が笑うたび
僕は怖くなった

だから

言葉の責任を放棄した



ごめんなさい
なんて
久しく口にしていなかった

遠く離れたはずの君の目に
青い僕がうつっていた

ひどく冷たい背中は
生暖かいそれに恐怖した

その手が振り下ろされるたび
僕の呻き声が聞こえた

そして

意識が途切れることを許した






11/10/2024, 2:49:31 PM

ススキ

静かな場所に行きたかった
誰にも見つからない
どこか遠いところに
忘れられた僻地に

歩いては
立ち止まってを繰り返し
少し泣いたと思ったら
がむしゃらに走って
疲れ果てては
ぼろぼろと泣いて
それでも歩いて
歩いて歩いて

辿り着いたそこはとても静かだった
人の姿はうかがえず
動物さえも見当たらない
どうにもこうにも
寂しい場所だった

灰色の植物が風に揺られ
さらさらと手を振っている
名前はきっと忘れてしまった

真っ黒の空を掌握した白い丸が
こちらをキッと睨んでいる
名前は何だか思い出せない

こまごまとした屑をうつす大きすぎる水たまりは
じわじわと靴を濡らしにかかった
名前はおそらく知らないだろう

名前のわからないそれらに見惚れて
名前のわからない歌を口ずさんだ
何もわからないまま
目を閉じて
何もわからないまま
目を開けた

名前のわからない植物で
さらさらの花束を作った

その花束の最後の花が眠った時

もう自分の名前は
わからなかった






すすきの花言葉 「活力」「生命力」より



11/9/2024, 12:35:17 PM

脳裏

まっくらに
しらないこ
あのこ
こっちむいてて
おくちぱくぱくして
えんえんしてるの

まっくらな所に
見たことがない子がいます
その子は
こっちを見てて
わたしに
“ころして”

って言ってます
なんでかな
いっぱいないてて
かわいそうです

暗く小さな場所に
よく見ると私に似た
小さな女の子がいます
その子は
“殺して”と言いながら
泣いています
殺せないから
困っているのに
泣きたいのは
こっちなのに

暗い夢の中で
私の弱い部分が
具現化した子が
問いかけます
“どうしてあの時
何もしなかったの”
“どうしてあの時
殺してくれなかったの”
“殺して”
“殺してよ”
“貴方のために”
泣きながら喚くその頭に
いつまでも
いつまでも
銃口を向けたまま
引き金は
ひけないまま

脳裏で
その子に
お別れを言えたのは
私の灯火が
消える時でした
私は結局
あの子を
この手で
殺せませんでした
私は負けたのです

私の弱さに乾杯を
私の怠惰に讃美歌を
どうか安らかに

11/8/2024, 1:48:29 PM

意味がないこと

角砂糖を口に放り込んだ
体温に溶かされて
じんわりと甘く滲んで
いっぱいいっぱいの愛が満ちて
あふれてあふれて
こぼれおちた


大粒の雨が次から次へ
一緒に落ちてゆく
大切な思い出が広がって
きらきらと反射して
大きな衝撃が走った
とくとくと注がれる奇異な眼差し
ガラガラと音を立てた灯火


割れたガラスが散らばった
接着剤には言の葉を
満たして満たして
元通り
蝕む私に気づかない
どく、どく、どく、どく
戻れない





すくおうとしたんだ

11/7/2024, 1:34:47 PM

あなたとわたし

まぁ、お月様
今日は一段と輝いていらっしゃるのね
まんまるで、つやつやで
ぷかぷか漂うあなたはとっても素敵
あら、今日はお肌の調子がいいですって?
それは良いことだわ
わたしも今日は羽根の調子が良いのよ?
まってて、今あなたに見せてあげる
真っ白で綺麗でしょう?


あら、お月様
今日は氷菓子が溶けてしまったようなお顔をしているわ
そう、想い人にそっぽをむかれてしまったのね
思い詰める必要なんてないわ
あなたのような美しい方の魅力がわからないなんて
可哀想な方なのね
そうだわ、あなたのために歌を歌いましょう
わたしがあなただけを見つめられるように
サイリウムをお忘れにならないで?
もちろんお色は白一択よ


まぁ、お月様
そんなに小さくなってしまって
金平糖ほどの光になってしまっているわ
あら、目も合わせてくださらない
わたし、何か気に触るようなことをしてしまったかしら
そうだわ、わたしのこの白い羽根で
あっ、ええと、その
今日は少し、わたしも調子が悪くて
灰のような色になってしまっているのだけど
あなたの側にいて
抱きしめるくらい許してくださるわよね?





ねえ、お月様
今日は、どうして姿を見せてくださらないの?

ねぇ、お月様
わたしといる時間は楽しくなかったかしら

ねぇ、お月様
少しでかまわないから声を聞かせてほしいの

ねえ、お月様





あなたが褒めてくださった真っ白な羽根も
あなたからいただいた綺麗な輪の髪飾りも
髪も、瞳も、心も
ぜんぶぜんぶ
真っ黒に戻ってしまったの







堕ちてきたころの私に







あぁ、お月様
わたしの本当の姿をあなたは知ってしまったのね

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