たくさんの想い出
たくさんあると思っていた
灯のような琥珀
夜をうつす鉱石
星屑の結晶
散らばった月のカケラ
色も形も多種多様
それでもぜんぶがきらめいていた
ひとつ、ふたつ
みっつ、よっつ
見つけては日の光にかざし
大切に瞳にうつし
見つからないようにはにかんでは
そっと腕いっぱいに抱えていた
それなのに
そのはずなのに
小さなそれらは腕をすり抜け
音も立てずに消えていた
あの子も
あの場所も
あの気持ちも
あの何かも
ぜんぶぜんぶ
思い出せないでしょう?
冬になったら
真っ白な世界の真ん中で
困り顔の雲に願いを告げる
“どうかひとときの間私の夢を現実に”
氷の湖の魔法に魅せられて
誰もが見惚れるような舞姫に
雪の積もる箱庭の香りに誘われて
甘くとろけるお茶会を
苺を纏うおじいさまに惑わされて
贈り物にお手紙を
真っ白に覆われた世界だからこそ
色めき立つそれらに
どうしようもなく恋焦がれ
叶わぬ想いを諦めきれず
ただただ体温を犠牲に
祈り続ける
私の瞳の中の純白な世界は
どうしようもなく鮮やかで美しい
はなればなれ
ずっといっしょにいてね
なんて
柄にもなく吐いた言葉
色を持ったそれは
君を蝕んだ
黒く深く澄んだ瞳は
どこかゆがんでいた
その目が笑うたび
僕は怖くなった
だから
言葉の責任を放棄した
ごめんなさい
なんて
久しく口にしていなかった
遠く離れたはずの君の目に
青い僕がうつっていた
ひどく冷たい背中は
生暖かいそれに恐怖した
その手が振り下ろされるたび
僕の呻き声が聞こえた
そして
意識が途切れることを許した
ススキ
静かな場所に行きたかった
誰にも見つからない
どこか遠いところに
忘れられた僻地に
歩いては
立ち止まってを繰り返し
少し泣いたと思ったら
がむしゃらに走って
疲れ果てては
ぼろぼろと泣いて
それでも歩いて
歩いて歩いて
辿り着いたそこはとても静かだった
人の姿はうかがえず
動物さえも見当たらない
どうにもこうにも
寂しい場所だった
灰色の植物が風に揺られ
さらさらと手を振っている
名前はきっと忘れてしまった
真っ黒の空を掌握した白い丸が
こちらをキッと睨んでいる
名前は何だか思い出せない
こまごまとした屑をうつす大きすぎる水たまりは
じわじわと靴を濡らしにかかった
名前はおそらく知らないだろう
名前のわからないそれらに見惚れて
名前のわからない歌を口ずさんだ
何もわからないまま
目を閉じて
何もわからないまま
目を開けた
名前のわからない植物で
さらさらの花束を作った
その花束の最後の花が眠った時
もう自分の名前は
わからなかった
すすきの花言葉 「活力」「生命力」より
脳裏
まっくらに
しらないこ
あのこ
こっちむいてて
おくちぱくぱくして
えんえんしてるの
まっくらな所に
見たことがない子がいます
その子は
こっちを見てて
わたしに
“ころして”
?
って言ってます
なんでかな
いっぱいないてて
かわいそうです
暗く小さな場所に
よく見ると私に似た
小さな女の子がいます
その子は
“殺して”と言いながら
泣いています
殺せないから
困っているのに
泣きたいのは
こっちなのに
暗い夢の中で
私の弱い部分が
具現化した子が
問いかけます
“どうしてあの時
何もしなかったの”
“どうしてあの時
殺してくれなかったの”
“殺して”
“殺してよ”
“貴方のために”
泣きながら喚くその頭に
いつまでも
いつまでも
銃口を向けたまま
引き金は
ひけないまま
脳裏で
その子に
お別れを言えたのは
私の灯火が
消える時でした
私は結局
あの子を
この手で
殺せませんでした
私は負けたのです
私の弱さに乾杯を
私の怠惰に讃美歌を
どうか安らかに