愛染

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ススキ

静かな場所に行きたかった
誰にも見つからない
どこか遠いところに
忘れられた僻地に

歩いては
立ち止まってを繰り返し
少し泣いたと思ったら
がむしゃらに走って
疲れ果てては
ぼろぼろと泣いて
それでも歩いて
歩いて歩いて

辿り着いたそこはとても静かだった
人の姿はうかがえず
動物さえも見当たらない
どうにもこうにも
寂しい場所だった

灰色の植物が風に揺られ
さらさらと手を振っている
名前はきっと忘れてしまった

真っ黒の空を掌握した白い丸が
こちらをキッと睨んでいる
名前は何だか思い出せない

こまごまとした屑をうつす大きすぎる水たまりは
じわじわと靴を濡らしにかかった
名前はおそらく知らないだろう

名前のわからないそれらに見惚れて
名前のわからない歌を口ずさんだ
何もわからないまま
目を閉じて
何もわからないまま
目を開けた

名前のわからない植物で
さらさらの花束を作った

その花束の最後の花が眠った時

もう自分の名前は
わからなかった






すすきの花言葉 「活力」「生命力」より



11/10/2024, 2:49:31 PM