〘狭い部屋〙
むかしから姉弟がいたので自分のスペースはあまり作って貰えなかった。6畳の部屋を両親が、残り10畳しかない部屋を4等分。すると、必然的に空間は共有され、プライバシーのへったくれもない部屋ができたのだ。いくらパーテーションを設置したとはいえ誤魔化しきれない喧騒。自分はいつもその中に蹲ってなりを潜め、世界から光と音が消えるのを待っていた。
大学生になり、上京しようやく一人の空間を持つようになった。家賃との兼ね合いもあるので実家の部屋一つ分よりは広いとは言えないけど念願の自分のためだけの場所。幸せなはずだった。誰にも煩わされない時間と空間。やりたいこと好きなようにできる。そのはずなのに自分の心はどうにも空虚だった。
君と暮らすようになった。アパートは以前のままで君の空間ができた。最初はどうでもよかったはずなのに気が付いたら踏み込んでいて、踏み込まれてて最後には笑ってた。やはりというか自分だけの空間は自立前よりも狭くなった。けれどそれで良くて、君となら侵されるのも悪くないって思ってしまう。笑うのはもちろん泣くのだって怒るのだって聞かせてほくらいなんだ。
これって惚気だろうか?
〘降り止まない雨〙
「最悪だ」
俄に変わった天気模様に溜息をつき、これぐらいならいけるか?と少し手を出してみる。空から降る線は細かく今にも自分をみじん切りにしてしまいそうだった。
「しょうがない、戻るか。」
足先を変え、どこかへと向かっていく。部活や委員会、何にも属していない自分には行く宛がない。だから屋上へと行くことにした、といってもその手前だが。いつもこんなに人が避けているわけではないのだ。ただ、今日はひどくメランコリックで、それが嫌で知られたくないけど、ずっとこうだったらと思うので。
階段に腰かけ、目を閉じる。
こんな日があってもいいと望んでしまうのだ。
〘逃れられない〙
終わりがある。ハッピー、バッド、ノーマルどんな形であろうとも完成したらならば忘れ去られる日が、意図せず記憶から抜け落ちることが起こってしまう。成長し続けるからこそ私たちは学ぶために直面し、吸収し、過去とする。そのたびに私は彼らとの別れを惜しみいつまでかと悩み、次の場面では気が付けば資源として消費していた。
嘆いた、けれどそれは過去の私の猿真似に過ぎず、悲しくなどない。どうでも、どーでもいい存在で、私もその一部に過ぎなかった。所詮、大切になど出来ず、壊す。
〘忘れられない、いつまでも。〙
人を傷つけた時、痕を抉った日。誰に言われるでもなく、自分が被害を受けた訳で無い。けれど、呵責の念に押しつぶされそうになる。
そして、影が囁く。
「お前は悪だ、罪人なのだ。人を殺めた。
許されざるものだ。許されてはいけない。
けして許すな。俺はそれを知っている。」
妄執は声に呼応するかのように次第に大きくなり、俺を食おうとする。逃げる、もそうしきれず飲み込まれる、大きな口へ。無駄な努力だったのか。
ドボンッ。
体内は底知れぬ海のように揺蕩い、生物がこちらを見ていた。目を向けてはいけない、あれを理解してはいけない。せめてもの矜持だった。
覚めたとき、目元は濡れ、息は荒い。あれは俺でない、違う存在なのだ。鏡の像にそう喋る。
〘星が溢れる〙
瞳から輝きが零れ落ちるのをただ見つめていた。閉じた虹彩は何も語ることはない。彼女の口から音が漏れることもなかった。俺も口を噤む。昼休み後の授業時間、屋上前は静寂に満ちていた。
「君はいつからここにいたのか。」とか野暮を聞くことは無い。ここにいる訳なんてたかが知れていて、俺も同類だと思うから。互いに詮索の必要はない。そう割り切って、荷物を床に敷いた。
それからはルーティーン通りだ。壁にある例の伝言を確認する。『"死"ってどう思いますか。』その言葉から始まった知らない誰かとのやり取り。本来、考えないほうがいいこと。けど、それは俺にとっては大切な命題だった。だから、一番つらい時期ここでこれを見つけたとき、ある種救われた気持ちになった。『"俺"を代弁してくれてありがとう。』人生初の対話。相手と意見の合うことはない。けれど今だに書き続けている俺の生きた証。
今日の回答は◯◯◯◯だな~、ペンで書き足そうとしてはじめて筆箱を忘れてきたことに気がついた。手元にはリスカ用のカッターしかない。仕方ないので鞄に手を伸ばす。
※続きは気が向いたときに書きます。