アルメリア

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3/11/2024, 3:36:07 AM

〘愛と平和〙
 その天秤は常に傾いている。

 あるところでは、人々は絶えぬ戦争と貧困に苦しんでいる。これも武器商人達の自己欲(愛)のためだった。人々は暴発音の消えない夜も祈り続けた。夜明けが訪れますように、と。

「天秤の傾きの上には何がある。」
誰かが言った。
「これよりも良いものに違いないよ。」
もう1人が答えた。そうだ、そうだ。と聴衆は言って"それ"に釣り合うようにと"これ"を捨て駆け出していった。ある男はその様を見て、正しいのかも分からぬので抱えたままにしていた。
 
 革命が起こった。
 今までふんぞり返っていた奴らは皆死んでしまっていた。同様に仲間達の多くが亡くなっていた。気がつけばいつぞやの男は"それ"のために尽くす最後の1人になっていた。男は民を想い、善政を敷いた。そのためか民の様子は非常に穏やかだ。しかし、暗かった。それに達したはずなのに、釣り合ったはずなのに、いつしか天秤は逆転していた。

「天秤の傾きの上には何がある。」
誰かが言った。
「これよりも良いものに違いないよ。」
もう1人が答えた。そうだ、そうだ。と聴衆は言って"それ"
に釣り合うようにと"これ"を捨て駆け出していった。男たちの理念を知るものは最早誰もいなかった。

 ほぅほぅ、と烏がないている。王の死を嘆いて。

2/24/2024, 11:40:45 AM

〘Love you〙
 愛してる、なんて口が裂けても言えないので、せめて慰めにもならない言葉を吐いた。
「Love yourself.」
 これは私があなたに贈れる最大のアドバイス。納得なんて出来ず、しばらく苦しむあなたは変わらぬ孤独を見るだろうが、いつかは気付いてくれると信じている。
 そして、そのときにあなたは知るだろう。永遠の揺り篭などないのだと。

2/22/2024, 2:49:17 PM

〘太陽のような〙
 私、あなたに触れているとおかしくなりそうなの。手から伝わる体温も汗ばんだ感じに髪に触れる息、全部が恋しくて、向いてはいけないのに今にもあなたの方へ振り返ってしまいそうで。

 この気持ちにどう区切りをつけたらいいか、分からないなりに考えているのに、あなたを見つけると、心臓は勝手に飛び跳ねて、いないときはあなたを探し、今この瞬間は幸せすぎて死んでしまいそう。2人して見つかったら終わりなのに。.....大分、末期症状だわ。
 あなたは私たちに必要な人。太陽のように明るくて、手を差し伸べてくれた、平等な指導者。だから、私にあなたを囲うことなんてできないのは当然で、そしてその命が誰よりも重いのも理解ってる。だからこれは私の最期のわがまま。

 私は手を振りほどいて、一見見当違いかと思われる方向へと走り出した、……あなたを置いて。笑いながら行くものだから、追跡者からしたら大層、奇天烈なイカレ野郎に思えたでしょう。あなたからしたら命知らずすぎたかもしれない。でも、合ってるの。幸いにも私は背恰好が似ていたし、形見はあなたに渡し終えた後だったから。


 切ったばかりの毛先が変にくすぐったい。目から汗が滲んでる。嗚呼、日が沈まなければいいのに。

2/16/2024, 3:07:40 PM

〘誰よりも〙
「あなたにはどんな良い所がありますか」そう聞かれたら君はなんて答える?
『誰よりも早く走ることができます。』
『誰よりも料理が得意です。』
『誰よりも努力を怠らないことに自信があります。』
『誰よりも負けず嫌いです。』
『誰よりも………』
『誰よりも…………』
『誰よりも…………………』
----果たして誰もがそんな"個性"を持っているのだろうか。放課後、居残らされた教室で机に顎をついて考えた。手元には丸められたしわくちゃの紙が無理に広げられている。無論、自分が提出したくなくて格闘した痕が残っているのだが、粗方母親が掃除中に見つけ出して先生に問い合わせたのだろう。本当に余計なことをする。せっかく誤魔化せたのに。それで、話題を戻すけれど問題はこの紙だ。
『あなたにはどんな良い所がありますか』
これは道徳の授業中に出された課題だった。みんなが口々に「えぇ、自分じゃ分かんないよ〜」と言っていたので、自分だけではないのだと安心しきっていたのが、それが運の尽き。みんな、提出日には出していて、自分だけが赤っ恥をかいた。出してないことが恥ずかしくてたまらなかった。けれど、それ以上に答えなんか見つかりそうにもなくて、自分だけがのうのうとしたモラトリアムに取り残された感じが苦しかった。「他人と何が違うんだろう?」見当もつかなくて。所詮人間は要素の括りで区別されているから、知らない人からしたらある程度同じで、あえて違うとしたら経験。しかし、その経験すらも似たようなことは存在する。結果、たった一つの自分だけなんて難しい。あっても思い込みかもしれない。そうなると全てが詰みだ。目の前は真っ暗.........

 結論的に、こんなことを聞く世の中は何を求めているのか?それが自分の最大の命題だった。自分としては社会が人間に夢を諦めきれないから。そしてその社会を構成するのは人間、つまり人間が人間自身を苦しめている、だ。
 だから、相変わらずプリントの余白は埋まらないまま、日は沈んでいく。他の奴らは馬鹿だよな、それっぽいこと書いて理解した気で満足しちゃってるんだからさ。自分でも異常なのかもしれないとは思った。けれど、「果たして今日、無事に家に帰ることはできるのか」今はそう思えるぐらいには一周、回って非常に愉快だ。あ〜あ、こうやって自分みたいなやつが増えていけばいいのになぁ。そんな馬鹿すら考えた。
 
 さあさあ、ここまで見てくれた諸君!君はどう思う?

2/15/2024, 2:14:50 PM

〘10年後の私から届いた手紙〙
 帰ってきたら、机の上にはシンプルな手紙が置いてあった。白地に鉛筆で俺の名前が記してある。
「Dear ◯◯君」
やけに見慣れたような文字。手紙書く奴なんて、知り合いにいたっけなぁ、そう思いながら少々乱雑に封を切る。中身は二枚綴りの紙だけで一見普通に見えた。けれど、宛名を見て俺は頭を抱えた。それは外装とは違うように書かれている。曰く、
『10年前の俺へ』
 疲れ切った自分が悪ふざけで書いたのだろうか、笑えもしない冗談で、俺は思わず一度、紙を丸めて捨ててしまった。

 
 あれから、数日。手紙は届き続けている。毎日、毎日、懲りずに気がつけば色々な所に挟まって存在を主張している。ドアの隙間、天井、枕の下、弁当袋の中。そんなに見てほしいのか、遂に根負けして捨てた手紙を読み始めた。

----初日の手紙
『 10年前の俺へ
  やぁ、元気?と言ってもおまえのことだからこんな気    
 持ち悪い手紙、誰かのいたずらに違いないとか考えて捨 
 てるに違いないから十分元気だね。ところでこの手紙を  
 書いた理由、知りたいかもしれないけど、教えませ〜  
 ん。強いて言うなら当てつけ?ま、将来、出世街道まっ
 しぐらのおまえには分かんないかもね。
                10年後のおまえより』

----2日目の手紙
『   〃  へ
  やっほ〜 ! ついでだから今日も書いといた。今日、何
 があったか、知りたい?……やっぱ知りたいか!あの 
 な、キャバであった美人に本気告白されたんだ。「連絡
 先交換してくれませんか?」だって。羨ましいだろ。そ  
 の子にメール送るついでにこの手紙書いてる。金つぎ込
 みすぎて今月、死んでるけどな。大人って楽しいな!』

 仄かにきつい香水の匂いがした。
 しばらくは似たようなことが書いてある。

          ︙
          ︙
          ︙
----N日目の手紙   
『   〃  へ
  ………今さ、本当に辛くてさ、借金取りも日中問わ    
 ず外にいて、ドア叩いてるし。怖すぎる。どこにも出れ
 ない。そもそも、人様に迷惑かけてる時点で生きんなっ 
 て感じだし、本当もう、死にたい。あ、でもあの女だけ  
 は道連れにする。俺のこと、騙して笑ったし、殺す、殺
 す、殺す、刺殺刑。』         

----N+1日目の手紙
『   〃  へ
  昨日の手紙、誤解だったわ。あの子、めっちゃいい
 子だった。殴られてる俺見て、庇ってくれたし、病院
 連れてってくれたし、料理もつくったくれたし、最高
 に可愛い。本気天使。地上最後の俺の女神。愛して
 る。
  p.s. お前も彼女つくっとけよ 』

 情緒不安定に彼女について述べられている。
           ︙
           ︙
           ︙ 


 読んでいて思ったのは、手紙の自称・俺が大変自堕落た人間で、碌でもないということだけだ。しかし、彼からの手紙はこうしているうちにも視界の端で積もっている。そんなにして何が言いたいのか。

「もう十分だ、こんなの。」
彼が伝えたい言いたいことなんて俺はとっくに知っていた。だって、彼は"俺"だから。妄想でも現実でも違いなく、同じことを欲しているのだろう。遠回しな言い方だって、おまえにしないためなんだろう。なぁ? 
 じゃ、やることは決まっている。
 俺は筆を手に取った。


 その後、手紙はぱったりと途絶えた。保管していたはずの手紙たちもいつの間にか消えていた。結局、彼が誰だったのかを俺は知らない。俺自身の弱さから生まれた存在だったのか、はたまた本当に未来の自分だったのか。でも、今はどちらでもいいと思う。だって、彼が俺に(本当に欲しい未来を)教えてくれたことに違いはないから。
 ただ、感謝を伝えたい。


『こちらこそ、ありがとう』誰かが囁いた気がした。

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