寄り集まっている種を守るために
その背を丸めている
胸の奥であなたは
太陽の世界に敵うしたたかさを欲して
ぐっとこらえている
たとえるならそう
手足のように伸びやかに
多くのものに触れるけれど
同時にあなたを孤独にする舞踊をはらんでいる
それを愛と呼ぼう
わたしはそれを間近にして
わかると言えば
嘘になり
背を丸めれば
しっかりと立つ姿を観る
まるで無限の鍵盤をさらけだし
感情のすべてと補い合い
円な螺旋をかけ上がり
花びらのひとつになる日に
あなたが待っていたものになれるように
わたしのなかにもあるもの
いまは、誰にもあげない
#誇らしさ
誰にもしたことのない話をしよう
夢にも現れたことのない月のように
深いかなしみの底から光が差しこむ
裸体の渚で、わたしたちは会おう
幾夜も往復した痕を踏み鳴らし
灰混じりの砂浜にいのちを署名する
われた爪からほとばしる色の名まえが
からだ中をつたって丸い星を描く
「死ぬはずだったのよ」
多くのものが、とわたしは応える
「書かれなかったのよ」
あなたをつよく、わたしは抱きしめる
砕けた歯と青あざをとりこぼして
大洋の水面に弾け飛んだ伝承
「いのちは硝子でした」
焼かれ、身に宿し、無から産まれたことばも
綴じられたものは僅かに届かず
積み上げたことさえ忘れる
誰にも話したことがなく
誰も聞いたことがない
口が口を塞ぐとき
行き交う言葉を耳は知らない
「死ぬ前に──」
息を継いで、また
「死ぬ前に──」
繰り返している
書物机から遠ざかり
星あかりにもっとも近づいた縁を這う
八本脚の黒い影の喚きが
熱の詩になる
新月の前夜に滴る
あたらしい過去として
いつも此処になく
いつも此処にあることばとして
その腕をまわす
わたしたちの形になる
「ほんとうに多くのものがどこかに行ったんだ
聞いてくれるかい?」
#夜の海
ほんとうは
救われたい
望む力は
捨てきれないから
野が焼けて、鳥たちが湿地を目指して飛び立つとき
ほんとうは
報いのそばに居たい
小さくて、無様で、ひとりきりだから
なんとか
あたたかいほら穴を
狂わなくても
責められない夜を
欲しくて
過ごしたくて
#つまらないことでも
ゆっくりと走りだし
その痣に向かって
跳ぶ夜もある
落ちていく間に
めくるめく物語が
指先を弄びすり抜けていく
繋ぎ止めるために
栞を挿むような
得体の知れない祈りに
降参するような
深い森の仲間に
夢がまたひとつ加わり
ソーサーの上に置かれた
気配が凍りつく
スマホを落として
自分の身を守れなかったんだから、と
逃れられない理由を
言葉にしてみて
この世に味方を
もう探すことができないなら
目覚めている理由が
行為の音になる
ぼくは森をふく風のように
考えることをしないで
あなたと混ざりあう時
生まれてこなかったことにもなるように
ずっと
ずっと
ここにいる
冷たい手を、ぶら下げている
#だから、一人でいたい。
真白い昼光をはなつ
シーリングの上に
堪えられないものが
張り裂けて
端から端までを
見渡すことのできない
天を眺めながら
椅子に座って
あんまりな
生活を産んだ
海を産んだ
思いに耽るたびに
だれかの、胸の上で
踊るだけの水滴になりたい
埃みたいに払われても
一つの星でありたい
ぼくはぼくの
屋根のうえを駆けて
たださようならの
準備をしている
#カラフル