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8/31/2024, 7:14:00 PM

夜の瀬戸内は星の揺りかごのごとく、あまやかな晦冥のブルーを敷き詰めて、星のおもてからわたしのまなこまでは、糸がひとつ濡れたように張られる。その深い詞海から、古い情緒へと言葉が落ちるようにと、とうめいな永い指のことを感じたり、天からばらまかれた光が巨大な花茎の無限に裂けた形になって、わたしの吐いた気息をまた呑ませたりする。そして手持ち無沙汰に、あなたもこの星空を知っているのだろうと思う。そうすると眼窩の奥にじっと滲むものがあり、天国のためにためておいた涙も暗い波際からこちらに歩いてきて、あなたに手紙を返せなかったわたしのこともやはり繋ぎ止めている。手を取り合っては離れる夜の雲たちが、伝えられることのなかった人の愛のすべてを知っているなら、彼らにだけは、あなたを心で抱きたいとはじめて吐きだしてもよかった。こんなに綺麗な世界の、わたしのために置かれた少しの場所で、わたしは今、わたしだけの初夜を、一人迎えている。


#不完全な僕

8/20/2024, 12:41:00 PM

与えられたものの傍で

おにぎりを食べながら

夏の空は木立の隙間にかがやいて

ここに求めたものは

ひとつも無いけれど

ぼくのいのちにとっての

自然はあるのだと悟った

ぼくはぼくの祈る脚を

夜の悲鳴の先へ伴っていく

だれとも結ばれることはないだろう

子どもが生まれてくることなんてないだろう

しかしその分

仕えることをやめてはならないのだと

さみしい心底から掬い上げた

つたない意思を形にして

少しだけ自分のこと

信じられるようになれたらいいんだ

そう思ったよ


#さよならを言う前に

8/17/2024, 12:51:08 PM

あなたはなぜ書く

本当らしく

もっともらしく

なぜそこにいる

ほかの何処でもないそこに

なぜいる

なぜ


(破裂)


蠕動している大地の撓みに
片脚をもぎとられた話者を
引き摺って歩く街は泥の河
頭の燃えた蛍を呼びつけ
水溶性の悪を孕ませる
矮小な理念の遺構に
死の光の穂が地平まで揃って波をうって
ひかりになれぬものに
ひかるものをみいだす心はつくられた
あさましく、こどもの純な渾沌がまろびいで
おれは救われぬ
破裂した ばらばらの意味となって
生きがたいとさけんだ
鏡の口角を撃ち抜いた
馬鹿なことには耐えられぬ
救われぬ
破裂
破裂続きの
幸福な物質に
あさましい温もり宿り
死は
閉め切られた
剣の礎石になるを得ず
豚を食う塵が舞う
おれはどこ
どこに
光を知ればいい
だれか
だれか
救われぬのなら
おれを
おれを


(破裂)


#いつまでも捨てられないもの

8/7/2024, 11:14:11 PM

あなたのなかにはいって
このさきどこにもいけない

それなら手をたずさえて
あるきだすしかない

ぼくらはすすむ
対等になるためにいきる時代は
とうに置いてきた

宇宙はこのことをわすれるだろう

きみたちがひとつになった日に
泣いたことも

動物ではないぼくらが
生命にふれたとき

いきる手は伸びていったことも

#最初から決まってた

7/28/2024, 2:18:05 PM

寝床で空想する ごった煮の言葉と北方の川縁 祭りの誘いに断りを入れて 一人分の空白に赦しを与える大人 我が家に帰ることを十分に学ぶことができないまま 今頃は市役所沿いのコンビニも渋滞して 救急車に轢かれそうな酔っ払いと 通報された痴漢が夏の夜に汗をかいている 顕れた末法世に赤ん坊もむずかっているだろう 「〇〇くんみたいな人と結婚したかったわ」 爆発が降りそそぐ地上にあらゆる軋轢がひらいて 救いを求めている胸から溢れだす 彼女の眼の中にも火花は閃いているだろうか 痛みを伴う塩辛さが舌の上に広がる きみは若くて綺麗だから 僕は隣の街に引っ越して暮らすことにした 色んな話を終わりにするために もろい幸福の防衛線を大事にしている 明日も仕事があることを 有り難く思いながら

#お祭り

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