夜空の音

Open App
11/19/2025, 1:00:37 PM

吹き抜ける風

金曜日の夜。今日も俺はバイクを走らせる。
低くバイクをうならせながら、風をきって走るこの時間が俺は好きだ。何もかも、全てを置いて行ける気がするからだ。この時間だけは俺は自由だ。
トロトロ走る車も、ノロノロ走る原チャリも、その間をすり抜けながら追い越していく。
黒い服を着た俺と、黒いボディのバイクは夜の風のようだ。
バイクは改造を重ね、原型を留めていない。俺のバイクだ。俺だけのバイクだ。唯一無二のバイクだ。
そんなバイクが、そんなバイクを乗りこなす俺が、イケてると思っている。

久しぶりの金曜日。久しぶりのいつもの道を久しぶりに風になってバイクに乗った。
今までより、スピードが出ていた。この感情をどこかに置いていきたかった。
久しぶりにできた彼女は、俺のバイクの運転を心配していた。イケてるのではなく、危ないのだと言った。だから、俺は金曜日の夜をやめていた。
でも、別れてしまった。
大事にしたかった。大事にできなかった。
これまでないくらいにバイクはうなり、スピードが出ていた。身体が浮いた。そして、強い衝撃が全身を襲った。
俺とバイクは、風になってそのまま死んだようだ。

11/17/2025, 11:29:05 AM

冬へ

フユへ
久しぶり。元気にしてた?
私は今年も霜焼けと手の乾燥が酷いよ。まだ11月なのに1番暖かい上着着てる。
暑さは得意だけど、その分寒さに弱いの。今年こそ冬越せないかも。って、毎年言ってる気がするね(笑)また言ってるって、笑わないでよ?私にとっては毎年本気で悩んでるんだからね。
ほんとに、そろそろ冬眠必要だよ。フユは冬眠したくない?暖かいお布団でぬくぬくして過ごすの。こたつもいいね。

フユ、ハルと喧嘩してるの?最近ハルといるとこ見てない気がする。アキも、最近見かけないけど元気にしてるか知ってる?
2人とも、最近どうしてるんだろ。知ってたら教えてよ。
ハルはいつも後ろ姿ちらっと見かけてるよ。でも話しかける前にどっか行っちゃって....。
アキは最近ほんとに見かけない。アキ、どうしちゃったんだろ。心配だから結構待ってるんだよ?でもアキに会えないことの方が多い。
もちろん!フユと会えるのすごく嬉しいよ!フユとはなかなか会えなかったもんね。最近よく会えるようになって幸せだよ。
でもやっぱり、私全然2人に連絡取れないの。心配。

返事待ってるね。お仕事ファイト!
ナツ

11/16/2025, 10:26:15 AM

君を照らす月

「今日満月やん!」
綺麗な満月に私は心が弾んだ。
スマホを片手に、ふーん。と生返事を返す彼が隣にいた。
「めちゃきれいやで!な?」
そう彼にも見て欲しくて問いかけるが、画面の中のTikTokが面白いらしく、彼は腹を抱えて笑っていた。切れ長の一重がさらに細く、恥ずかしげも無く大きく口を開けて腹の底から笑う彼の姿が好きだ。彼の何が好きか尋ねられたら、まずは笑顔だと言うだろう。でも....。
なぜだろう、胸が痛かった。
今は構われたぁないんや。だまれ。と心の中で呟く。なぜか私の唇は力が入り、キュッと下がる。
1人静かに窓から月を眺める。
なんとなく口寂しくて、1本火をつけた。外は静かで、部屋は彼のスマホからなる音と彼の笑い声が響く。
煙が月の灯りを揺らす様子を見ながら、月みたいな女性に成長したいと思っていたことを思い出した。今も、月みたいになりたいと思っている。大切な彼の夜道を優しく照らせるようになりたい。
煙を吐いて、彼を見つめる。
「....なれへんな。」
「なにが?」
「月みたいな美人さんになりたいなぁって思っとっただけ。」
「充分美人やろ。顔整いすぎ。」
さも当たり前のように帰ってきた言葉を、今ひとつ信じられない私がいる。
「そんなことなぁよ。でも、ありがと。」
やっぱり、私は彼の月にはなれそうにない。
彼は、私が照らすには眩しすぎる。彼は私を照らしてくれる、太陽だから。

11/10/2025, 10:18:46 AM

寂しくて

「俺の見られたくない部分を見るなよな。」
「教えてくれないと、わからないよ....。」
「教えてもいいけど、教えたらお前の前から俺は消える。」
「なんでそんなかたくななの?うちは、一緒に考えたいのに。一人で抱え込ませたくないだけやん!」
「だから!教えてもいいよ。いいけど、言ったらお前の前からもダチの前からも誰もの前から俺は静かに消えるけど、それでも聞きたいんか?っていってんの!わかる?」
運転席に座る男は、あからさまにイライラしていて、助手席に座る女は余裕を失いヒステリックになりかけていた。
「いなくならないでよ。話してよ!一緒に楽になれるのを考えようよ!」
女は必死に男に訴える。
「一人で考えるより、二人で考えた方がいろいろな考えかた....。」
「うるせぇな!言ったら消える!言わんかったら消えない!どっちかなの!わかる?」
必死に、彼の心の荷物を少しでも一緒に持ちたいという女の悲痛な願いは男の怒りの声で消し去られる。
女は押し黙ってしまい、車内には男の手元のタバコが鳴らすチリチリという音だけが虚しく響く。
「....私、そんなに信用出来ないの?」
女の潤んだ声はか細く、小さかった。
返事はない。
女はため息を吐きながら頬づえをついて窓の外を見た。
少し震えた息とともに、なんとか抑えていた涙が、一つ、また一つと頬と腕をつたう。

11/4/2025, 10:15:05 AM

キンモクセイ

金木犀、懐かしい音だ。
中学の教科書の小説に、その題名の話があったのを覚えている。何故か記憶に残る物語だった。少年が少女に初恋を抱く、進展もなにもしない。そんな物語。

金木犀の匂いが好きだ。
フレグランスで金木犀があればそれを選んでしまう。どこが好きとかはわからない。ただ、匂いが落ち着く。

小さく黄色い花は、印象的だ。
一つ一つに、何かが詰まってるようで。

私も、小さな花々に詰めていこう。
初恋を、純愛を、片思いを。思い出を。
そして、両手で抱え続ければいい。

Next