夜空の音

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君を照らす月

「今日満月やん!」
綺麗な満月に私は心が弾んだ。
スマホを片手に、ふーん。と生返事を返す彼が隣にいた。
「めちゃきれいやで!な?」
そう彼にも見て欲しくて問いかけるが、画面の中のTikTokが面白いらしく、彼は腹を抱えて笑っていた。切れ長の一重がさらに細く、恥ずかしげも無く大きく口を開けて腹の底から笑う彼の姿が好きだ。彼の何が好きか尋ねられたら、まずは笑顔だと言うだろう。でも....。
なぜだろう、胸が痛かった。
今は構われたぁないんや。だまれ。と心の中で呟く。なぜか私の唇は力が入り、キュッと下がる。
1人静かに窓から月を眺める。
なんとなく口寂しくて、1本火をつけた。外は静かで、部屋は彼のスマホからなる音と彼の笑い声が響く。
煙が月の灯りを揺らす様子を見ながら、月みたいな女性に成長したいと思っていたことを思い出した。今も、月みたいになりたいと思っている。大切な彼の夜道を優しく照らせるようになりたい。
煙を吐いて、彼を見つめる。
「....なれへんな。」
「なにが?」
「月みたいな美人さんになりたいなぁって思っとっただけ。」
「充分美人やろ。顔整いすぎ。」
さも当たり前のように帰ってきた言葉を、今ひとつ信じられない私がいる。
「そんなことなぁよ。でも、ありがと。」
やっぱり、私は彼の月にはなれそうにない。
彼は、私が照らすには眩しすぎる。彼は私を照らしてくれる、太陽だから。

11/16/2025, 10:26:15 AM