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11/2/2022, 12:44:25 PM

やめたい。
帰りたい。
毎日毎日そう思ってた。
何をやめたいのかどこに帰りたいのかわからないけど、そう思ってた。

強くそう思ってしまう日は、遠回りして帰った。
知らない路線のバスに乗る。揺れのリズムは慣れなくて少し不快だが、悪くない。
好きな音楽を聴いて、よく知らない街の風景をぼーっと眺める。
私の知らないこの街にも人間がいて、ひとつひとつドラマがあるんだよな、と当たり前のことを再確認して、音楽とバスの揺れに身を委ねるのが好きだった。

でも結局それは気晴らしに過ぎなくて。
問題点を見ないようにしていた。
見たところでどうにもならないと、なんとなくわかっていたのもある。

朝から晩まで問題点から逃げ回り、ようやく眠りにつく。
私が寝るのを察するかのように、虫の鳴き声が小さくなる。
この部屋には月明かりも入らない。
部屋の明かりを消して、光も音もない世界へ。
目を閉じるとぽとり、ぽとりと音がする。
弛んだ蛇口から水滴が落ちているような音だ。
やめたい。
帰りたい。
やめたい帰りたい。
ヤメタイカエリタイヤメタイカエリタイ…。
水滴の音はいつの間にかざあざあと水の流れる音に変わっている。
瞼の奥には、人影が。
そこには私を睨みつけている、ずぶ濡れの私がいた。
私は手の震えを隠しながら、私の濡れた冷たい手を取った。
「ごめん!急なことだから傘は持ってない!でもついてきてくれるよね?」
ずぶ濡れの私はコクリと頷く。
そして行き先不明のバスに、ずぶ濡れの私たちは勢いよく飛び乗った。

#眠りにつく前に

11/1/2022, 12:14:22 PM

永遠なんてないよ。
理想郷なんてないよ。
いつもはそう言い切ってしまうけど。

今日はひどく落ち込んでいてね。
永遠。理想郷。
そんな言葉に甘えたくなる。

ふわふわで暖かな布団に顔を埋めて。
私の情けなさを受け入れて。
私の不完全さを受け止めて。
お願い。どうか永遠に。

#永遠に

10/30/2022, 11:05:53 PM

病にどっぷり浸かった同士と
傷の舐め合いにすらならないやりとりをして
とりあえず何か掴むふりをするけれど
時間がさらさらと砂のようにこぼれ落ちるだけだった

そんな生活に迷いや葛藤をさし挟むことはなかった
さし挟む余地すらなかった
病はそれほど重篤だった

その頃に戻りたいとは微塵も思わないが
愚か過ぎて真っ直ぐだったと
時折懐かしく思う

#懐かしく思うこと

10/29/2022, 11:20:30 AM

ちょうど少し前に風呂の中で考えていた。
もしあの時違う選択をしてたら、今どうなっているんだろう?と。
色々考えた結果、その選択が正しくても間違っていても、今と変わらず精一杯生きてるんだろうなと思った。
何だかほっとして、風呂を出た。

#もう一つの物語

10/24/2022, 3:56:12 PM

引き出しの奥に手をやると、指先に懐かしい感覚を覚えた。
腕をこちらに戻すと、手のひらにはうさぎのキャラクターがついたりぼん。
うっすら埃がついていて、手垢で黒くなっている。
よく見ると、うさぎの耳の端に小さな虫食いの痕が幾つもあった。
ああ、と深いため息が出た。

小学生の時に母から貰って、すごく気に入って毎日のようにつけていたっけ。
このりぼんのおかげで隣の席の子と話ができたこともあったな。
近所のおばちゃんも、このりぼん可愛いねえと褒めてくれて、私はいつも得意げになっていた。

でも、だんだんうさぎのりぼんをつけるのが恥ずかしくなってきて、ある日遂に引き出しの奥に入れたんだ。
ごめん、少し待っててねと言って。

少しのはずが、あっという間に20年以上経って。
隣の席の子は、頭のいい中学に行ってしまってそれっきり。
近所のおばちゃんは5年前に亡くなってしまった。
母は白髪がずいぶん増えた。
私は、私は―――

いかないで。
おいていかないで。
あなただけおとなになってずるい。
でもときはざんこくだから、
もうもどれないわね。
あなたもわたしも、
ずいぶんきたなくなってしまった。
わたしをすててもいいけど、
わたしのことわすれないでいてね。
ぜったいにわすれないでね。


#行かないで

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