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やめたい。
帰りたい。
毎日毎日そう思ってた。
何をやめたいのかどこに帰りたいのかわからないけど、そう思ってた。

強くそう思ってしまう日は、遠回りして帰った。
知らない路線のバスに乗る。揺れのリズムは慣れなくて少し不快だが、悪くない。
好きな音楽を聴いて、よく知らない街の風景をぼーっと眺める。
私の知らないこの街にも人間がいて、ひとつひとつドラマがあるんだよな、と当たり前のことを再確認して、音楽とバスの揺れに身を委ねるのが好きだった。

でも結局それは気晴らしに過ぎなくて。
問題点を見ないようにしていた。
見たところでどうにもならないと、なんとなくわかっていたのもある。

朝から晩まで問題点から逃げ回り、ようやく眠りにつく。
私が寝るのを察するかのように、虫の鳴き声が小さくなる。
この部屋には月明かりも入らない。
部屋の明かりを消して、光も音もない世界へ。
目を閉じるとぽとり、ぽとりと音がする。
弛んだ蛇口から水滴が落ちているような音だ。
やめたい。
帰りたい。
やめたい帰りたい。
ヤメタイカエリタイヤメタイカエリタイ…。
水滴の音はいつの間にかざあざあと水の流れる音に変わっている。
瞼の奥には、人影が。
そこには私を睨みつけている、ずぶ濡れの私がいた。
私は手の震えを隠しながら、私の濡れた冷たい手を取った。
「ごめん!急なことだから傘は持ってない!でもついてきてくれるよね?」
ずぶ濡れの私はコクリと頷く。
そして行き先不明のバスに、ずぶ濡れの私たちは勢いよく飛び乗った。

#眠りにつく前に

11/2/2022, 12:44:25 PM